■ 天使のうつわ
作者 [ もち さま ] ジャンル [ のんびりだらだらファンタジーRPG ] 容量・圧縮形式 [ 23MB・ZIP ] 製作ツール [ RPGツクールVX ] 必須ソフト [ RPGツクールVX RTP ] 配布元
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 10/10 8 /10 8 /10 51/60 赤松弥太郎 8 /10 8 /10 9 /10
《 ES 》 ハマリ度:10 グラフィック:8 サウンド:8
絶望の前こそ、のんびり行こうぜ!
本作「天使のうつわ」のジャンルとして、作者のもち氏は「のんびりだらだらファンタジーRPG」と名付けています。しかし、これは「同胞全てが幽霊と化してしまった」主人公・レイスアール、「他の世界の破壊まで視野に入れなければいけないほど混乱している」悪役側、双方の絶望的な状況を極限までオブラートに包んだストーリーを指しています。決して「気を抜いてもクリアできる」という意味ではありません。
そう、「天使のうつわ」は、そのノホホンとした自作グラフィックに反し、戦闘バランスはシビアに設計されています。
そう言った裏面でのシビアさは「らんだむダンジョン」と似通っていますが、あちらはあくまで「確率によるドロップアイテムのコレクション」が主体の作品。「天使のうつわ」のドロップ品は固定ですが、その分、「確保しないと辛い」バランスになっています。
バランスは厳しめとはいっても、「魔壊屋姉妹。」や「月夜に響くノクターン Rebirth」のような全滅ギリギリの縛りプレイを前提にしたバランスでは、流石にありません。状態異常にさせたり、弱点属性を突けば楽に越せますし、Lvアップよりもカードによる強化の方が比重が高いシステムにより、戦闘を回避してもジリ貧になる可能性や、レベル差による影響が少なくまとまっています。
そして、「天使のうつわ」の面白さは、そのバランスを知略を駆使して乗り越えた先にこそ存在しています。「厳しさを超えた先に待つご褒美」が明確に与えられた構成になっているのです。
ザコ戦さえ油断してると主に約1名がダウンするバランスになっていますが、その分、ドロップ確率が高めに設定されています。
強い赤ザコ戦を制すれば、宝物が詰まった部屋を開放できる「カギ」が手に入ります。
より高みを目指す方向けに「隠しボス」までいます。通常のボスを超える強さを持つ「隠しボス」ですが、倒した後に手に入るアイテムは、「苦労の甲斐があった!!」と呻るほど強力なものばかりです。
ダンジョン内には、力押しでは越せない謎かけまで入っています。これも答えが出るまでにクリアすれば、レアアイテムが手に入る仕掛けになっており、「絶対クリアするぞ!」という気概がわいてきます。(…ただし、仕様上、「答えを聞いた後でF12(リセット)」で邪道クリアもできてしまう辺りが、難点といえば難点です。)
お宝大好きな私ことESにとって、このバランスは非常に好みです。ハマリ度を満点にしても足りないほどです。
周りを彩る愉快なキャラクターたちも、「天使のうつわ」の魅力の一つです。シリアスでシビアな背景を持つ主人公側も悪役側も、発するセリフはコメディチックなものがほとんど。「しゃべらない主人公」レイスアールも、「♪」や「汗」など、表情自体は豊かなキャラクターになっています。
そして、ステージ4を越し、自由にステージを行き来できる「空間のはざま」に付く辺りになると、もう一人の「しゃべる主人公」グリンの物語とのザッピングが発生します。
ここから物語もシビアさを増し、大切な兄を救うため、天使・レイスアールの命を狙うグリンとの対決が始まる…はずなのですが、実際の語りからは、そういった暗黒面は上手い具合に隠されています。
ここら辺のストーリーテリングの巧みさは、もち氏の真骨頂と言えます。やってること自体は真剣で命がけなのに、表から伝わってくる雰囲気は決して暗くならない…。だからこそ「のんびりだらだら」と戦闘や宝探しを楽しむことができる。…だから、あんまり進めてないけど、いいよね?
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:8 グラフィック:8 サウンド:9
愛する星を護る為生まれた 運命さ
強烈な個性やこだわりを持った作品を、特に好んでレビューしてきたボクですが、
この作品もまた、強い個性をもった作品ではないかと思ってます。
その個性を一言で表すとしたら……「こだわりの無さ」と言っていいでしょうか ?
丹念に、しかし力まず、脱力せず、自然体のテンションで作品を作る、それは殊このフリゲ界隈においてはかなり希少な個性だと思うのですよ。
人気イベントアンケートを行えばたぶん上位に入るだろうあのシーン、
序盤の病魔の檻イベントからは、端的にこの作品のメッセージが表れてます。
レイスアールが落ちてきたのは、病魔がさまよっている不思議な空間。
そこで「せんせー」と名乗る青年と出会います。
なぜか病魔に懐かれ、慕われているこの青年は、レイスアールを外に送り届けるまで付き添おうと言います。
そう。レイスアールが外に出るまで。
なぜなら彼は、この檻から外に出ることができないのです。
まあ、言ってしまえば病原体の隔離施設なんですな、この空間。
いかにも医者風な特技を備えてますが、この檻の中で病気にもならずに生きてたり、職業欄が「???」だったりするあたりで普通の人間であるはずもなく、せんせーの正体はかなりバレバレです。
せんせーはきっと、何故自分が外に出られないのか、うすうす感づいていたはずです。
設定によれば、エラい先生があーだらこーだらして、世界中の病原体をここに集めて封印したとかいう大層な施設だったらしいのですが、
さてレイスアール、天使としてはここは
気にせずブッた斬り。
その後世界中で病気が流行するのは別の物語……っていいんですかそれで。
下手したら人口の大半が死滅する大災害なんですが。
人間は環境を変える力を持った生き物です。人類はより自分たちにとって生きやすい世界を作るために環境を変えてきましたし、これからもそうでしょう。環境保護と言ってもそれは、人類にとって都合の良い環境を守ろうという意味でしかなく、「狼は死ね、鯨は生きろ」なのです。狼によって一家の食い扶持を文字通り食い荒らされていた19世紀の畜産業に狼保護の重要性を説いたところで、全くの徒労に終わるでしょう。病原体の撲滅も意味するところは同じです。確かに病原体の撲滅に反対する人々もいます。誤解しないでほしいのですが、「なあに、かえって免疫力がつく」ということではありません。ボク個人の衛生観は山田真著『子どもと病気』からの影響が大なのですが、この本では清潔主義→優生思想→ホロコーストの結びつきであるとか、ハンセン病等、特に日本で根強い感染者や弱者に対する差別・偏見についても取り上げ、「人間中心主義」から邪魔なものはすべて排除するという発想の危険性に警鐘を鳴らし、病原体との共存共生の方向を探すべきだと主張します。理念としては確かにそうですが、しかし実際著者は医者ですから、細菌の感染者を守るためなら抗生物質も使用するでしょう。今まさに感染症に苦しんでいる患者や、あるいはその家族・遺族に、病原体との共存共生なんて題目は訴えるだけでも難しいことです。この本が刊行された1991年、20年前と比べると、今は外国人や障害者に対する差別がさらに先鋭化しているとボクは感じているのですが、それは昔の方が良かったということでは全くなく、かつて共存共生と言われてきたことがもはや当たり前、避けられないことになり、その実際と直面しているからではないかと考えています。ボクは山田先生のような理論のバックグラウンドは持っていません。より本能的なレベルで、病原体の撲滅はどこか正しくないと感じているだけです。本作の「病魔」のような擬人化をしていたわけではないですが、ボクもまた、病原体に感情移入する部分はあったのでしょう。無論むやみな感情移入は所謂アニミズムに陥るだけですが、しかし共感する力は人類にとってもっとも重要な力の1つです。善悪の判断ではなく共感によって、レイスアールがせんせーの解放を願ったこのシーンに、本作の思想は明白に表れています。終盤で、レイスアールは天使という立場を超えて、敵対してきた者と手を取り合い、世界のルールを司る者達との戦いに向かっていくというストーリーになるようですが、ボクはノーマルエンドを迎えた段階で時間切れになってしまいました。ガッデム !
ブッた斬り。
ボクのようにこだわりが強く暑苦しい人間だと、こう、無駄に力が入っちゃうんですよ。
本作はストーリー上かなり壮大なテーマを実際扱っていて、主義主張も明快なんですが、
しかし作者の言うところの「のんびりだらだら」から一歩もぶれるところがありません。
空間が1つ消滅するとか、かなり深刻で犠牲者も出ているだろう事態が起きていても、タッチがまったく変わらず、安定しています。
それはきっと、作者さんがやりたかったのがメッセージを伝えることではなく、「のんびりだらだら」とレイスアールたちのお話を書くことだったからじゃないか、とボクは思ってます。
フリーゲーム界にはろくな天使がいないとは、いったい誰が言い始めたのでしょうか。
絶対的な善である神の使いであり、善を為すために生まれた存在、という考え方が日本人的な多神論となじまないからかも知れません。
ボクも正直、絶対的な善なんて気持ちワルいと思ってます。
その点、レイスアールは天使としては失格です。善悪より感情で動いてしまう子ですからね。
彼女も「しゃべらない主人公」です。
しかし、プレイヤー自身として動くため、没個性的に設計されているドラクエの主人公とは、また違ってるんですよね。
非常に感情豊かで、ハッキリした個性を持ちつつも、表現が身振り手振りと選択肢だけに限定されてる主人公……
ボクが思い出したのは「スーパーマリオRPG」のマリオです。
あの当時、マリオはしゃべりませんでした。クッパの一人称を「ワガハイ」にしたのはスクウェアの功績ですが、その時点でもまだしゃべれませんでした。さらにはしゃべれないことをメタネタにしているくらいです。
しゃべらないというより、しゃべれない、しゃべらせることが出来なかった……
ボクはいつの間にか、レイスアールってもしかして、「しゃべらない」んじゃなく「しゃべれない」んじゃないかと考えるようになってました。
だからしゃべったときはビックリしましたね。ノッポさん以来ですよ本当に。
と同時に、今までしゃべらせなかった理由も、なんとなあくわかった気がします。
彼女個人の語りが入ってしまったら多分、この「のんびりだらだら」した雰囲気は伝えられなかったでしょうから。
けして語りすぎず、やわらかい雰囲気を崩さず、伝えることはしっかり伝える姿勢……
ちょっとだけ羨望しつつ、評点に移ります。
- ハマリ度 : 8 / 10
- コマンドを何回かキャンセルしていると勝手に状態異常が治ったり、敵ドロップのカードを拾った直後プレイヤーは完全硬直なのに敵シンボルが勝手に動き回ったりといった仕様は、やはり気になる。視点が中央にならない等、ちゃんとチェックしていれば防げる問題も散見される。
頻繁な視点切り替えの度に装備を持って行かれるのも、かつて何度となく泣かされてきた身としてはいささかレトロな仕様と言わざるを得ない。ロストすることはないとはいえ、戻ってくるのはずっと後だったりするので要注意。
特に中盤、特殊効果を持った装備が揃い始める頃に頻繁に視点切り替えがあるので、こまめに装備を付け替えていると劇的に難度が下がる。ストーリーも盛り上がる時期なので、早く話を進めたい人にはオススメしたいスタイル。- グラフィック : 8 / 10
- マップチップや敵グラ等は素材なのだが、作者の描き下ろしが要所でいい味を出している。
特にキャラチップ。プレイヤーキャラ含め敵シンボル、町の住人もかなりの部分が描き下ろしで、他の素材をも本作の雰囲気になじませている。- サウンド : 9 / 10
- ザコ戦闘でもマップBGMを継続して流す仕様で、いい曲を長く聴いてもらいたいという意図がハッキリ伝わる。
素材曲として有名な曲も、そうでない曲も良曲揃いで、安心して聞いていられる。「シナリオ置いてけぼりで戦闘ばっかりしたりウロウロしてアイテム集めたりするのが好きな方へどうぞ」という自薦文から、らんダンを思い出す人も多いようなのですが、この作品はもっと違う方向性を持っているようにボクには思えます。
むしろ「そうでない方」、口数少ないストーリーから物語を楽しむ人に、この作品をオススメしたいですね。