■ ふしぎの城のヘレン
作者 [ さつ さま ] ジャンル [ アイテム選択型ターン性バトル ] 容量・圧縮形式 [ 12.3MB・ZIP ] 製作ツール [ RPGツクール2000 ] 言語 [ 日本語 ] 備考
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 10/10 9 /10 9 /10 113/120 餅 10/10 10/10 10/10 牛人 9 /10 10/10 9 /10 赤松弥太郎 9 /10 10/10 8 /10
《 ES 》 ハマリ度:10 グラフィック:9 サウンド:9
アホの子ヘレンに代わって、生存手段を考えよう!
今回紹介する「ふしぎの城のヘレン」は、同作者の「愛はさだめ、さだめは死」などと同様、タクティカルな戦闘システムを重視したRPGです。
シナリオの短さや全滅時のペナルティの少なさ(チェックポイントに戻るだけで、経験値などは持越し)により、難易度自体は手頃です。しかし、積極的に道筋を探さないとストーリーを進められない作品でもあります。
舞台となる遺跡は隠し通路が多くあります。前半部は「アイテムの隠し場所」というおなじみの役割ですが、中盤~終盤あたりになると正しい道筋ですら隠されています。「道なり」に進むだけでは第二階層あたりで行き詰るため、積極的に隠し通路を探す必要があります。
この点、「不親切」と取られる場合もあるかと思いますが、決してそんなことはありません。ヒントは必ずあります。
ただし、ヒントのある場所と仕掛けのある場所は離れています。書籍などをくまなく調べ、頭か紙にメモしながら進めていきましょう。さて、本作はこの「仕掛け」を重視した作品です。ニューゲーム当時のヘレンは「字が読めない」という設定になっており、家などにある書籍を読んでも「?」と帰ってくるだけです。
「字が読める」ようになるのは中盤になってからで、丁度ストーリーも風呂敷畳みに入る佳境のところです。ここで今まで気になっていた本や看板を調べてみると…「あっ」と驚く仕掛けが待っています。戦闘面でも「仕掛け」を読み解くことで難易度が下がる仕掛けになっています。普段のRPGのように「体力減ったら回復」というマンネリな手法は通じないバランスになっているのです。
何せ、肝心の回復方法は、
- 詠唱時間が長く(+9まで強化しても15カウント)、唱えている間は隙だらけの「ヒール」
- ヒールよりは詠唱時間は短い(+9まで強化して10カウント)が、下手すると相手の一発よりも回復量が低い「クイックヒール」
の2種類のみ。フィールドでも使えるものの、使うたびに強化レベルが下がる厄介な代物です。鍛冶屋でSSまで強化しても、一度フィールドで使用すると+9に戻ってしまいます。
勢い、戦闘での攻略手順は、「いかにダメージを抑えるか、あわよくばノーダメージに抑えられるか」が中心になります。
クリティカルやミスなどの乱数要素はないとはいえ、最も重要になる「敵の行動」はランダム。しかも、中盤あたりになると、「ヘレンの行動を見てから自分の行動を決める」頭のいい戦法がデフォになってきます。
ヘレン側では敵キャラの第一行動は把握できないため、最初のコマンドは「何が来てもいいような、できる限りの安全策」とならざるを得ません。
- 素早い攻撃が中心のキャラなら、剣で耐えつつ攻撃
- 剣中心のキャラなら、こちらも剣で戦うか、弓矢の牽制で削って盾で防ぐ
- 魔法中心のキャラなら、それより早い剣や弓矢で先手必勝
- あえて弓矢をガードさせ、魔法を唱えるまでの相手の行動回数を減らす
などなど、相手の主な攻撃に合わせて臨機応変に作戦を変える必要があります。
この臨機応変な戦法を考えるには、8個限定のアイテム枠(増加は不可能)は中々に不便です。
パッシブ効果のアクセサリなどは、普段はアイテム欄を圧迫するだけのお荷物に思われますが、最大6ダメージ減らせる「マジックローブ」や常にカウントが1早くなる「スピードシューズ」の効能は意外に効いてきます。(パワーバンクルは…全く強化してないので分かりません。)
回復機会の少ない本作では、1ダメージの差(剣で完封しながら反撃できる)や1カウントの差(普段は先手を取られるコマンドを先に発動できる)で、かなり難易度が変わります。
なお、これらの戦法の幅を広くする意味でも、「ダンジョンを隈なく探す」ことが要求されます。特に最終面では、「あるアイテムがないとまず勝てない」モンスターも出てきます。「避けて通れる」ザコ敵とは言え、道中を普通に歩いているため、「あるアイテム」が無い場合は慎重に避けるしかありません。
その分、ダンジョンを隈なく探し、EXPを溜め、限界にまで強化すれば、大幅にヘレン側が有利になります。「ふしぎの城のヘレン」は、探索・成長などにより「思わぬものが見つかった喜び」を満喫できる作品です。
もちろん、ストーリー上の「思わぬもの」も、進めるたびに1枚1枚明らかになっていきます。
『求めよ、さらば与えられん』…本作は、このゲームならではの楽しみを3~4時間程度の短時間で味わえる作品です。
《 餅 》 ハマリ度:10 グラフィック:10 サウンド:10
RTPに愛を込めて……
今回、初のVIPRPG作品のイチオシレビューという事で、普段VIP作品のレビューばかり投稿している私も投稿させていただきました。
恥ずかしながらHTMLの知識が希薄であるため、拙い構文でお送りします。
まず本作の内容について語る前にVIPRPGについてざっと概説しますが、VIPRPGの作品というのは大きく二つに分けられます。
「もしもシリーズ」のキャラクターや世界観を使用したゲーム
それ以外のゲーム
の二種類です。もしもシリーズというのはVIPRPGで流行ったシリーズ物であり、簡単に言えば多数の作者でキャラクターや世界観を共有して作られているゲームです。
素材が豊富に存在したり、キャラクターを自作する必要が無かったりと利点も多いのですが、プレイヤーが登場キャラを知っていることが前提となっており、知らない人には取っつきにくい難点もあります。
さて、ふしぎの城のヘレンですが、このゲームは後者「それ以外のゲーム」に該当します。
つまるところ、VIPのネタやキャラを知らない人でも全く問題なく遊べるゲームです。
(これが言いたいがために冗長な説明をしてしまった)
しかし、登場キャラクターは全て後述するRTPであり、その意味ではVIPらしいとも言えます。
さて、このゲーム作者のさつさんといえば
「愛はさだめ、さだめは死」
「鳥取砂丘より愛をこめて」
「エピタフ」
などの数多くの名作を作ってきた大変有名な方なのですが、その作風としてRTPキャラへの愛が挙げられます。
RTPというのはRPGツクールに最初から用意されている素材であり、ある程度慣れたツクラー、プレイヤーからは飽きられる傾向にある素材です。
しかし本作に登場するキャラクターは全てRPGツクール2000及び2003のRTPキャラクター。
そして、それらのキャラクターにドット絵のアニメーションや、RTP素材風に描かれた顔グラフィックが用意されているのです。
VIPRPGにおいてはRTPキャラがメインで活躍している作品は多々ありますが、ここまでRTPへの愛着を感じさせる作品は他にないでしょう。
と、RTP素材についてばかり語ってしまいましたが、本作のキモはそれらのRTPキャラが行う独創性に溢れる戦闘にあります。
戦闘システムは実際に遊んで知ってもらうとして、この戦闘システムの特色はランダム性が無いことが挙げられます。
敵への攻撃が一定確率で外れる事も無ければ、攻撃のダメージが乱数で増減する事もありません。
敵の行動ルーチンもパターン化されており、決まった戦術を取ってきます。
ともすれば単調になりかねないシステムですが、行動値や敵の使用武器に合わせて次に取るべき行動を練るという戦略性が存在し、また敵もこちらの行動やターン数経過に合わせた戦略的な行動を取ってくる為、これがゲーム性とも言える面白さを生んでいます。
- 盾で敵の攻撃を受け止めて隙を見つつ強力な魔法を打ち込む
- 回復魔法を駆使して敵をジリ貧に追い込む
- 敵の魔法を誘って弓で削り切る
と、いった様々なプレイスタイルで遊べる事も大きな利点と言えるでしょう。
この特徴的なシステムは後に「戦いの果てのヘレン」などの対人ゲームにも派生しました。
ゲーム中では進行する度に謎解きが必要となる場面が度々ありますが、ヒントがあまり無く、進行に困る事もあります。
しかし、あれこれ試していると解決策がそのうち見つかる事も多く、解けなくてもネット上で攻略が見れる、という今のフリーゲームを取り巻く時勢を考えれば適切なバランスなのかもしれません。
ハマリ度:10/10
優れた戦闘システムと不思議な世界観から掴みが良く、短めながらも濃密な内容で一気に遊べます。
グラフィック:10/10
緻密なドット絵で描かれたキャラが動く動く。
イベントシーンやエンディングでは一枚絵も描かれており、非常に丁寧な印象を受けます。
サウンド:10/10
多くの素材サイトから知名度の高い名曲を集めて使用されています。
第一回、第二回両方の「みんなで決めるフリゲ音楽ベスト100」一位の曲が使われている事が象徴的でしょうか。
曲は場面に合うように使われており、曲そのものが持つ力とゲームの造形が合わさって多くの印象的な場面を構成しています。
……満点となりましたが、それぐらい私的には隙の無いゲームだと思います、はい。
《 牛人 》 ハマリ度:9 グラフィック:10 サウンド:9
心まで麻痺してはいない!
数時間でクリアできる短編です。
確率に影響されない、詰将棋のような戦闘が特徴です。同じ敵に対して勝利パターンを確立すると作業になりがちですが、同じ敵はあまり多くないので気にはならないでしょう。
ストーリーもきれいにまとまっています。ヘレンと共にふじぎの城を探索しましょう。しゃべらない主人公もいいです。ハマれます。話のテンポが良く、戦闘も面白いから試行錯誤が苦にはなりません。クリアまでの数時間、没頭できました。
すごいグラフィックです。ルドラ信者にはたまりません。
某階層では、ストーリー上の意味づけに対し、背景とBGMが絶妙で感動しました。そこのBGMは街中で口笛を吹くぐらいツボです。
救済措置として序盤で手に入るあるアイテムがフル強化で化けるのもポイントです。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:9 グラフィック:10 サウンド:8
無限の世界 信じていたぼくらのあの季節 ずっと
あるところに、ヘレンというエルフの少女がいました。
彼女は森の中の小屋で、兄さんと、一匹の羊と一緒に暮らしていました。
森に囲まれた小さな空き地が、彼女の知っている世界のすべてでした。
空き地の北には古びた遺跡がありましたが、兄さんはいつも「絶対に近づいてはいけないよ」とヘレンに言うのでした。
オープニングも説明もなく、開始直後に放り出される本作、初見では何がなにやら、という人も多いでしょう。
導入の弱さという弱点については、今回のレビューでしっかりフォローしていきたいと思う……のですが、あまり言葉は要らないのだよなあ。
まずは開始30秒までのストーリーを書いてみました。ヘレンが北の遺跡に旅立つところから、このあたたかな成長物語は幕を開けます。
この子が主人公のヘレン。
ヘレンはエルフですが、標準的なエルフよりもずいぶん体力があるようです。弓矢、魔法に限らず、大剣や重盾まで扱うことができます。
また手先も器用で、その場で装備品を改造して強化する、という才能があります。
とっても高性能で、しかもかわいい……のですが、作中ではみんなにアホの子扱いされてます。
ものを知らないのはしょうがない。兄さんがものを教えなかったからです。兄さんが全部悪い。
だけど、そういう次元じゃないところでもアホの子扱いされてるのは、たぶん←みたいなかわいいポーズを取っちゃうのも原因でしょうね。
かわいいは正義ですが、なにか足りないんじゃないかという印象も抱かせるのも事実でして。
最初はただ冒険したい、もっと広い世界へ行きたい、という(プレイヤーの)思いから旅をしていたヘレンですが、終盤になり、真相が明らかになるにつれて、みんなから彼女にどんな思いが掛けられていたか、気づくことになります。
みんなのために戦いたい、と(プレイヤーであるあなたが)望むのも、自然な感情です。なのに彼女がみんなのために頑張ろうとすればするほど、ますますみんなにバカ呼ばわりされてしまう、というこの不条理。
みんな、ヘレンのことがかわいくって仕方ないんですよ。ヘレンには苦労をさせたくないから「やるな」と言ってるのに、勝手にみんなのために頑張っちゃう。子どもを叱る親みたいな感覚ですよネ。
……まあ約1名、重いのケツでかいのと、レディーに対してあるまじき暴言吐いてる奴がいますけど。ヤツはツンデレとかじゃなくて誰に対してもそうなのでめげないように。
文字が読めないというのがキーになるキャラクターです。
物語終盤になってから、兄さんが字を教えてくれるんですが、それはつまり、今まで知らないで済んでいたことを知ることになるわけです。
今まで隠されていた真相や、兄さんの日記の内容や、兄さんの性癖を知ることで、彼女は一歩ずつ大人になっていくんですね。これもまた感動です。
こういう仕掛けは、コンシューマだと差別表現だとか色々言われて難しいんでしょうかねえ……つまらない世の中です。
さて、問題のこの兄さん。
名前がわかるのが終盤になってからですのでネタバレを避けて……もう、ニーサンでいいや。
最もヘレンを深く愛している……愛しすぎてアブナイ領域に首まで浸かってて、もはや手遅れですね。
開始時点で、遺跡の方へ行こうとするとチョロチョロ後ろから着いてくるんですよこの人。で、振り返ると猛スピードで逃げ出す。
この時点ではまだ、ヘレンの兄だとプレイヤーは知らないのでただのアヤシイ人、っていうか完璧ストーカーだよねそれ!
ニーサンがヘレンの兄だとわかるシーン、これがまたヒドい。
遺跡を潜っていって奥、いかにもボスっぽいグリフォンを倒してさらに奥に行こうとすると、
!?
それを聞きたいのはこっちだよ!
このあとで、ヘレンの兄だというフォローが入って、ああニーサンはただ過保護だっただけなのね、と納得できません。
あからさまに怪しい、ラスボスのオーラ全開なニーサン。なぜここまでヘレンに執着するのか? その愛情は本物なのか?
隠されたニーサンの過去、そしてヘレンに託した想いは、終盤になれば徐々に明らかになってくるでしょう。あなたが望んでいなくとも。
最初はヘレンとニーサン、2人しかいなかったヘレンの「世界」。
森を出た彼女は、色々な人達と出会い、だんだんと自分の世界を豊かにしていきます。
何しろ最初の二人からしてこの濃さです。
これからどんな強烈なキャラがヘレンの前に現れるのか、
どうぞご自身の目で
お確かめください。
- ハマリ度 : 9 / 10
- まず導入の弱さについて、オープニングなどを作る必要はないが、スタート地点を家のベッドに変えるだけで良かった。まず宝箱を取って、外に出て、外にいる人と話す、というプレイヤーの動線が設計できるからだ。それだけで印象が変わっただろうと思うと惜しい。
前作「愛はさだめ、さだめは死」のルーツは継承しながら、さらにシンプル・直感的に作り上げられた戦闘システム。頭を使って戦略を組み立てる序盤の愉しみが、やがて思うように戦闘が進行できる終盤の爽快感に変わっていく。その面でもゲームのボリュームが絶妙で、長すぎず短すぎない塩梅だったように感じる。
ただ、アイテム欄は8つ、シンプルなパラメータ、武器自体を鍛えるというシステム設計に対して、明らかにアイテムが供給過剰。序盤の装備の方が性能がわかりやすいせいで、序盤の装備ばかり鍛えて最後まで使い、終盤の装備はほとんど拾っちゃうおじさんの倉庫へ直行、というプレイスタイルになりがち。拾っちゃうおじさんの倉庫で回収率を明示し、トレジャーハントの愉しみをできるだけ損なわないよう配慮はされているが、やはり残念。
一度鍛えた武器を元に戻し、経験値を払い戻せるシステムであれば、いろいろな装備を試すことが出来ただろう。興味のある人は2回目以降のプレイで試してほしいというスタンスかもしれない。- グラフィック : 10 / 10
- ツクール2000が発売されてから10年以上、蓄積されてきたドット絵の粋と呼ぶべき水準。なにより、その絵を活かす演出が素晴らしい。戦闘は言わずもがな、イベントや細かいマップ演出でも手抜かりがない。
個人的に一番印象深いのが、ラスボス前のサイラス。シンプルなモーションで、あの場面はアレしかないという演出ではあるが、今まで使用されていなかった動きをするせいで非常に印象に残る。仕込みが重要、という話。- サウンド : 8 / 10
- さつさんの選曲は古典的なところから手堅く、という印象がある。本作もフリゲ音楽好きなら一度ならず聞いた曲が多いのではないか。安定感がある。
しかし終盤ボスで使用されたのが、「あの」TrialさんのThe Decisive Battleなのだが、その後の展開で、音楽的にそれを上回る盛り上がりに欠いていたように個人的には感じる。氷石さんのDon't Feel Badも般若さんのヘルマスカレードも名曲ではあるのだが、ラストバトルにふさわしい圧力があったかと言われると難しい。かと言ってThe Decisive Battleがラスボス向きかというとそんなことはなく、そこがこの曲の難しさでもあろう。
中編としてとてもよくまとまった傑作です。プレイ時間はたかだか数時間ですが、その時間以上のものを伝えてくれます。
本作をクリアした後、ヘレンに、そしてみんなに、新しい空が広がっていることを願っています。