■ 殺戮の天使
作者 [ 真田まこと さま ] ジャンル [ ホラーアドベンチャー ] 容量・圧縮形式 [ 134MB~333MB・ZIP(全4話) ] 製作ツール [ RPGツクールVX Ace ] 言語 [ 日本語 ] 備考 [ 「ゲームマガジン」アプリにて、スマートフォン上でもプレイ可能 ] 配布元
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 9 /10 9 /10 9 /10 53/60 赤松弥太郎 8 /10 9 /10 9 /10
今回のイチオシ「殺戮の天使」は、愛の物語です。何もかもを失った少女・レイチェルと、殺すこと以外何も知らない男・ザックとの愛の物語です。
第一印象では、「愛の物語」という印象は受けないでしょう。特に、2018年7月現在好評放映中のアニメ版のトレイラーでは、明らかにザックはレイチェルを狙う殺人鬼。実際、ゲーム版のステージ1は、レイチェルを操作してザックから逃げ惑う展開になっています。
しかし、殺人鬼としてのザックはハッキリ言ってザコです。「3秒待ってやる」と余裕ぶったせいで部屋に逃げ込む隙を与えた上、箱に隠れただけで見失う青鬼以下の知能、ダッシュボタンさえ忘れなければ、彼からの逃亡はさほど難しくはありません。
しかし、ザックが本領を発揮するのはここから。レイチェルに難なくステージ1を突破されたザックは、あろうことかルールを無視してステージ2まで追ってきました。ルールを無視すれば、ザックもレイチェルと同じ「追われる側」になるのを理解していたのでしょうか…?
あろうことか、レイチェルはそんなザックに希望を見出します。自分を「殺してくれる」人だと…。本作の登場人物は、誰もこれも狂人です。
本作で唯一、表社会での立場を持っている精神科医・ダニー。彼はレイチェルとザックの恋のライバルとして、ストーリーの中心人物となります。
ステージ3のボス兼墓守を務めるエディもまた、レイチェルに執着を見せ、ザックの邪魔をしてきます。
ステージ4のボスにして女幹部担当のキャシーは、ある意味最も悪役としてふさわしい仕打ちをレイチェルとザックに与えてきました。一番GAME OVERを見たのは彼女のステージです。
ラスボスであるグレイ神父は、物語の根幹と真相を担うキャラとして、むしろ狂言回しに徹したキャラになっています。ただし、彼もまた狂人です。自らの理想を叶えるためには、薬物洗脳ぐらいは何のためらいもなく仕掛けてきます。薬物洗脳されたレイチェルの顔グラは、異様に色っぽかったです。そんな5名(ザック含む)から狙われる少女・レイチェル。彼女にはいったいどんな秘密があるのでしょうか。
彼女がザックに「殺して」と願い、「何故」と聞かれたら「神様に自殺を禁じられているから」と答える…それほどレイチェルは「神」に依存しきっています。
そして、現時点で言えるのはここまでです。これ以上のレイチェルの人となりは、最終盤でやっと明かされる秘中の秘です。
2018.07.08時点では、アニメ版は1話を放映したばかり。アニメ版で見る方の楽しみを削ぐことは、ここでは控えておこうと思います。4話にもわたるストーリーを回せたのは、レイチェルの秘密を最終盤まで控えていた点もありますが、もう一人の主人公であるザックが馬鹿という点も一因にあります。
馬鹿ゆえにルールを無視してレイチェルを追い、馬鹿ゆえに「私を殺して」というレイチェルの願いに乗り、馬鹿ゆえに謎解きに協力し、馬鹿ゆえにその謎解きを力業で破壊し、そして、馬鹿ゆえに最終ステージに至るまでレイチェルに違和感を持ちませんでした。
まともな教育さえ受けていれば、一番まともな人生を全うできたのはザックではないか…そう思わせるほど、ザックが馬鹿ゆえに殺人鬼の道を選んでしまったことでさえ、作中で描かれています。馬鹿ゆえに一途なザックと、そんな彼になぜか依存しきっているレイチェル…彼と彼女がデスゲームからの逃避行の中で交わす交流は、(あえて言いますが)エモさの塊です。
エモさ満載の展開は、デスゲーム世代の10~20代に大きく響いたのでしょう。世代から大きくずれている私でさえ、これが「エモさ」かと理解したほどです。
アニメ第1話で先を見たくなった方には、是非ゲーム版をプレイしてください。プレイ時間は4話合わせて4~5時間程度。GAME OVERとなる追いかけっこ等はありますが、ストーリーは一本道です。
…ええ、あの展開しか存在しないのです。「愛の物語」と言えども、その「愛の物語」には乗り越えなければならない常識はかなり大きな壁です。登場人物のほとんどは犯罪者。ともすれば、犯罪者であるザックたちを肯定する物語とも捉えられる恐れさえあります。
しかし、本作は読者が「常識」をわきまえていることを前提として作られた物語です。さもなくば、無料作品であったPC版からカドカワのバックアップが付いてくるわけがありません。
しかし、わきまえるべき常識は「犯罪はいけないよ」という子供じみたものだけではありません。「犯罪を裁くには、厳密な法およびプロによる検証を必要とする。私人が己だけの判断で罰を下すのも、また大罪である。」までわきまえておかなくてはいけません。ここまでわきまえられる人は限られるでしょう。「犯罪者のターゲットがいつ自分に向くか分からない」という恐怖に打ち勝てる人間など、そうそういないからです。
「正義」のために犯罪者を集めてデスゲームをさせるグレイ神父も、彼を否定して脱出を図るレイチェルとザックも、ストーリー的には明確な肯定をしていません。これが、物語を最終盤まで読んだ時の私ことESの印象です。
この点を心しながら、アニメ版やゲーム版、その他出版物で2週目してみるのも、おススメの楽しみ方です。私はずっと前からテレビ受像機を処分してしまったため、アニメ版を楽しむためにAmazonプライムに加入しました。5分でザック登場、10分で第1ステージクリアという駆け足気味の展開でしたが、ダニーが完全に信頼してはいけない方の櫻井孝宏である点だけで、アニメ版が原作を愛して作り上げた物だとうかがえる出来栄えでした。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:9
そのひとのため 翼あつめて 天使の拳を振り降ろせ
ツクール製のフリーゲームで人と作品を集め、メディアミックスによって収益を得る。これが角川のビジネスモデルだったはずです。
本作はやや挑戦的な主題に見えるかも知れませんが、その実、とてもメディアミックスに向いた作風です。
メディア展開で最大の障害になるのは、メタネタやRPGの戦闘など、プレイヤーが操作することを前提とした仕掛けですが、本作にはどちらもありません。分岐もまったくありません。
宗教的に物議を醸しそうな部分も、新興宗教だからという理由でカバーはできています。一見、殺人や自殺幇助を肯定的に描いているように見える点も、いくらでもフォローのしようがあるでしょう。
作者に演劇の素地があり、本作に演劇的な演出を取り入れたことも、メディアミックスのしやすさに大きく作用しています。
スーパーファミコン期のファイナルファンタジーなどをプレイすれば、見下ろし方2Dドット絵による表現が、演劇と極めて近いことが納得できると思います。
おそらくアニメは、本作にとって最も親和性の高いメディアでしょう。
演劇では難しい精細な映像演出と、実写作品では難しいアンリアルな描写、どちらも得意としているからです。
しかし、だからといって、本作はゲームに向いていない、最初からアニメや小説で展開すればよかった物語かと言えば、ノーです。
本作は探索ADVという表現手段について、示唆に富んだ内容となっています。
ゲームシステムに目新しいところはありませんがその分、古典的な探索ADVの文法が大きな役割を果たしています。
まず、探索ADVとしての構成の面白さ。
7層(7層目には何も無いので、実質6層)に及ぶ本作の舞台は、各フロアそれぞれに特徴的な外観とギミックを備えており、はっきりと差別化されています。
それは、個性的な各フロアの主たちの内面を表しているからであり、マップそのものがキャラクターとも言えます。
本作の攻略は一方通行であり、原則攻略済みのフロアには戻れないのですが、だからこそ終盤、今まで上ってきた階層を再び降りるイベントが映えます。
かつて攻略したマップを再び見た瞬間、かつての主がいなくとも、その時の冒険をありありと思い出すのです。
肉体労働担当のザックと、頭脳労働担当のレイ、これでギャラは同じという役割分担は、Ibという古典的な教科書を思い出させます。
ストーリーとしてもこの非対称性が大きなポイントになりますが、やはり、プレイヤーが操作する探索ADVだからこそ、この差異は際立ちます。
中盤までは協力して、お互いの得意分野に助けてもらいながら「役に立とう」とする2人ですが、終盤からは単独で行動しなければならない場面が増えていきます。
レイを操作している時は「ザックがいれば」と思い、ザックを操作している時は「レイがいれば」と思う。
これはそのまま、レイとザックの気持ちであるはずです。
「役に立つ」という思いは、対人関係の本当に根本的なもので、友人関係も恋人関係も家族関係も、その上にしか成り立たない、というのがボクの持論です。
互いの思っていることがバラバラであっても、自分が相手の「役に立っている」と互いに思えるなら、その関係は安定したものになるのです。
さて、本作のシステムはとても古典的で、近年廃止される傾向が強いシステムも、そのまま採用しています。
メニューとアイテム一覧のことですね。
近年のシステムであれば、怪しい地点を調べれば、キャラクターが自動的に最適なアイテムを使ってくれるのが常道です。
迷うようなアイテムがあるなら、調べた後でプレイヤーに選択させればいい話です。怪しい地点が目で見てわからないようなギミックは、近年は回避される傾向にあります。
アイテム一覧からアイテムを選択する必要はなく、さらに、画面上に常に所持アイテムを表示すれば、アイテム一覧自体が不要になります。
特殊なコマンドを駆使する必要が無いなら、もはやメニューに期待されるのはセーブとロードだけ。
RPGのような大仰なメニューを用意する必要は、まったくないのです。
しかし本作は、メニューを残しています。アイテムとセーブと終了しかないのに。
近年のやり方に慣れていると、メニューからアイテムを選択するのはいかにもまどろっこしく、ユーザーフレンドリーではないと感じます。
それが証拠に本作でも、ほとんどの場合は調べただけでアイテムを自動で使ってくれます。しかし、使ってくれない場合もあるのです。
その法則性はよくわからなかったのですが、メニューからの選択にも、プレイヤー経験に対する効果はあります。
まず、このメニュー画面がなければ、彼女らの全身絵を見る機会が確実に減る、という点。
そして、意識的にアイテム一覧を確認することで、現在の状況を整理する機会になっている、という点。
最後に、関係ないアイテムを選ぶことで会話をコンプリートしたいという、プレイヤーのヤリコミ欲を加速させる、という点です。
やはりゲームの醍醐味と言えば、一筋には決まらない、プレイヤー行動の柔軟性にこそあるものでしょう。
本作に分岐はなく、シナリオは完全な一本道です。ゲームオーバーもあっさりしたもので、アフターストーリー創作の余地はありません。
その意味でも、実にメディアミックスに向いている本作ですが、しかしプレイヤーは、いろんなオブジェクトを調べたり、ゲームが進行しない余計なことをして回ったりするものです。
もしかしたら想定していない穴があるんじゃないかと重箱の隅をつつくのは、決して悪意からだけではありません。
その探究心を満たす安全弁として、このアイテムメニューは役に立ってくれる……はずです。
そう書いてはみたものの、本作はゲームとしては古典的すぎるというか。初出が2年前の作品だという点を考慮しても、それでもなあ。
本作の最大の売りがストーリーにあることは理解しつつ、ゲームとしての不満を書いていきます。あの時期の電ファミニコゲームマガジンには、あまりにも魅力的な作品が多く、今回やっとイチオシに至った作品ではあります。
- ハマリ度 : 8 / 10
- やはり終盤以降、本作がメッセージ性を増す場面で、テキストが走りすぎていてプレイヤーの理解を置いてけぼりにしている印象があった。そもそも内面世界に踏み込んだ、伝えづらい主題であるし、探索ゲームはどう足掻いても、小説的な内面描写には向いていない。レイとザックは「普通の人」ではないのだから、なおのことだ。映像化ではどのように料理されるかがキーポイントになるだろう。
バランスは、鬼ごっこがやや辛く、ラストステージのある仕掛けが完全に初見殺し。しかしその直前に必ずセーブメニューは開く。ザック最強を裏付けする意味でも、この難度調整は適切だと思う。
唯一B3Fの時間制限の緩さが不満。分岐マニアには最大の見どころなのに、分岐踏破にはとてもストレスが溜まる。- グラフィック : 9 / 10
- ラフスケッチ調の一枚絵は勢いがあるものの、時として何が描かれているのかわかりにくい点、そしてトリップ時の演出の見づらさが気になった。
他には不満がない。キャラチップのアニメーションも芸が細かくて良い。- サウンド : 9 / 10
- 高品質なツクールストア素材が充実してから、特に現代物のゲームは選曲センスがより一層問われていると感じる。どの作品でも似たような曲ばかりという事態になりつつある。
本作はその状況下でも、心を揺さぶりインパクトを残す工夫をしている。メインテーマも、しっかりクライマックスで流すことを考えて選んでいる。
商業的な成功を無視しても、ホントに輝いてたと思いますよ。