■ 銀竜奥義伝
作者 [ LAKO さま ] ジャンル [ 戦略シミュレーション ] 容量・圧縮形式 [ 137MB・ZIP ] 製作ツール [ WOLF RPGエディター ] 言語 [ 日本語 ] 備考 [ 第13回 WOLF RPGエディターコンテスト 総合優勝作 ] 配布元
- (補足)
- 2021.08.29:現在の最新バージョンは、1.5です。
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 8 /10 9 /10 8 /10 52/60 赤松弥太郎 8 /10 10/10 9 /10
拳の道は日進月歩。常に昨日の自分を越えろ。
本作「銀竜奥義伝」は、ほのぼのとしたグラフィック・ゆるふわなキャラクター・優しいストーリーと、フレーバー部分はプレイしやすい印象を持つ作品です。
戦闘バランス自体は厳しいものの、敗走しても(日数経過・資産減少などの)ペナルティは特になく、出入りを繰り返して経験値や知識を溜めればいつかはクリアできる仕組みになっています。装備やスキルには限界はありますが、ステータス成長でゴリ押しもできます。難易度を下げればトライ&エラーの回数自体も1~2回程度に抑えられ、手軽にストーリーを楽しむことができます。しかし、本作はやり込み要素も揃っています。ハイスコアランキングとタイムトライアルです。高スコアやターン数節約を狙うとなると、途端に本作はその牙を露わにします。
本作で一番厳しいのは「移動のみで1ターンを消費するため、足を止めないと攻撃できない」仕様です。とにもかくにも敵を知らないと一発当てるのにも一苦労となります。
苦手な属性・行動のルーティン・絶対に避けなければいけない攻撃など、敵ごとに必要な知識は数多くあります。しかし、スキル「みやぶる」やメニューの「冒険日記」で分かる敵の情報は、姿・名称・HP・属性・小ネタの5つのみ。最も重要な行動パターン・移動力・所持スキルは、自らの目で見極める他ありません。
最初のDランクでは「常にメイメイに隣接して殴る」という単純な行動の敵ばかりですが、次のCランクの時点で「メイメイから逃げるように移動するうえ、特定のタイミングでホーミング攻撃(メイメイの位置に関係なく当ててくる)を放つ」ハチやテディベアが出てきます。ホーミング攻撃は威力も高めに設定されているため、ターン数や前兆を見極めて「防御」が必要になります。
後半の敵になると「まともに喰らえば敗北必至の範囲攻撃」から逃げられるように移動も考える必要があります。大体が斜め6方向・横1列×縦3列の範囲になっているため、前兆を取ったら必ず範囲外から離れるようにしましょう。
なお、高威力の技は前兆はあっても発動後の隙はまず無いため、うっかり接近すると次の技が痛い場合もあります。行動パターンは必ず全ての行動を見切るようにしましょう。本作は、ゴリ押すならばかなり楽です。回復アイテムが強めに設定されているためです。1ステージ3戦闘の試合で、エリクサーに当たる「どら焼き」が最大3つまで持ち込める…と考えた時点で、かなりユーザフレンドリーに設定されていることが分かるでしょう。
しかし、ハイスコアを目指すためには、これらのゴリ押し要素を封印する必要があるのです。アイテムを使用すると、スコアに当たる「闘志」が下がる仕様になっているのです。強力な技の中には「闘志」を消費するものもあり、これもハイスコアを狙うためには封印せざるを得ません。闘志やアイテムを節約して戦うためには、できるだけ多くの敵・弱点が同じ敵・早く倒さないとヤバい敵を1つのスキルで巻き込めるよう、相手の行動パターンの熟知が必要になります。また、最初に持っているスキルは横1直線・無属性の「気功波」と「防御」だけです。弱点を突ける属性攻撃どころか「みやぶる」ですら経験値を払って購入しないと使えないのです。
イージーならば全てのスキル・全ての装備を購入しても余るほど資産が手に入りますが、高難易度クリア・高スコアクリアを目指すとなると「購入する手順」から考えなくてはいけません。これらつらつらと挙げた思考作業こそ醍醐味と考える人も、そんな苦しい思考作業などしなくてもゆるふわなキャラクターとストーリーだけを楽しみたいと考える人も、どちらのタイプにも対応しているのが、本作「銀竜奥義伝」の強さです。
幅広い人に対応しているレベルデザインが、本作を第13回ウディコン総合優勝に押し上げたのは、まぎれもない事実です。
ただ、戦闘バランスのみならず、ストーリーやキャラクターも割とスケベなのが、場合によっては人を選ぶかもしれません。それでもご安心を。Pixivや前作シリーズ「Sebastian and Little lady」を見る限り、作者の性癖はいたいけなケモノ美少女ではなく、恰幅隆々のケモノおじ様にあることも、まぎれもない事実です。
…えっ、余計安心できないって!?
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:9
近道なんかは見つからない ひたすら励むのみ
シンプルだからこそ、たいへんよく練られたSLGです。ステータスのバランスが美しい。
本作のステータスは5種類、闘技場で得られた経験値をその5つの向上 + 技習得のために使うのですが、その配分になかなか悩まされるのです。
序盤はとかく[攻撃]と[防御]に偏りがちですが、それだけで敵を封殺することはまず無理です。加えて、この2つは装備で補えるので、賞金が安定する中盤以降、優先度は落ちてきます。
遠間から攻撃できる技主体の攻めを構築するには、まず経験値を[体力]に振ってMPを確保、次に[精神]向上で技の火力を底上げ、その上で技を習得しないと機能せず、大量の経験値が必要です。
これら4つと比較して[運勢]は地味なパラメータですが、相手との差が開くとこちらの攻撃が当たらない、相手の攻撃がクリティカルする、とはっきり体感できます。一定値以上はキープしたいところです。
つまり、捨てられるステータスは、1つもありません。
できればランクを一息にクリアして、大量の経験値と賞金を手に入れたいところですが、EASYより上の難度では、そう簡単にいきません。
たるみきったメイメイの初期状態では、Dランククリアすらままならず、ギリギリ黒字ラインで2回戦を突破できるか、といったところでしょう。
スコアを意識しないなら、大きな問題はありません。敵を1匹でも倒していれば、少しずつでも経験値は貯まっているのですから。
自分のお好みで、全ステバランス良く育ててもいいし、特化してもクリアできないわけじゃありません。(運勢特化は……しんどすぎると思うけど)
しかしこれが、スコアを意識し始めて、最短挑戦回数で突破しようとすると、途端に難しくなります。
目先の効率だけでランクを突破しても、その後苦戦するようでは意味がなく、長期的な展望に基づいた育成が……
……違うな。
ボクがこの作品のレビューで書きたいことは、そういうことじゃ無い気がするんだよな。
攻略は望まれてるだろうけど、ヘタッピのボクが書いたところで、説得力のある記事になる気がしないし。
ボクが本作をプレイして、違和感を持ったのは、大きく2箇所。
1つは、骨太で小さくまとまったシステムに対して、盛りすぎたストーリーが乗っていること。
ハイスコアを狙って周回プレイする前提で考えると、確実にスキップされてしまうであろうメインストーリーに掛けている時間が長すぎるのです。
もう1つは、かわいい女の子を全面に押し出したタイトルデザインなのに、この方の描く絵からはそれとは違うにほひがある、という点。
そう言えば、この方の絵は前に見た記憶がありますね。
確か探索型ADVを作ってたと思うんだけど、本作みたいにこだわったシステムを構築する方でしたっけ?
このミッシングリンクは、実際に前作をプレイしなければ解き明かせないでしょう。
ということで。
Sebastian and Little ladyシリーズ、クリアしてきました。
いやあ、いいお話でした。
うっかりお嬢様のプリンを食べちゃったり、うっかりお嬢様のパンツをかぶっちゃったりする、ちょっぴりだらしない執事のセバスチャン(58)と、
そんなセバスチャンに道ならぬ慕情を募らせる、ちょっぴり危なっかしいフェルミお嬢様(10)の物語、全3作です。
とてもいい作品ですから、みなさんも是非。メイメイの入浴シーンもあるでよ。
さて、では本作、銀竜奥義伝について振り返って考えてみると。
やはりスクリプティング担当のRUCOさんの功績はとても大きいな、と。
前作一作目からプログラミングサポートとして名を連ねているRUCOさん、前作でも端々で光る仕事をしていましたが、今作の活躍はまさに大車輪。
HEXを使ったシミュレーションバトルの構築、そして楽曲の書き下ろしまで、1から取り組んでいます。
そりゃあウディコンの紹介文がRUCOさんの仕事メインで書かれるのも当然でしょう。
それでも、ゲームデザインもシナリオも、LAKOさんの手によるものです。
本作全体の、明るく穏やかな雰囲気は、前作から変わらないLAKOさんならではの味でしょう。
LAKOさんの物語は、ドラマチックな面もあるし、非日常的な緊迫したシーンもあるのですが、それが普段の、穏やかな日常と繋がった形で描かれるのが特色です。
非日常的な状況にあってなお、登場人物達が普段と変わらない関係性を紡いでいることに、プレイヤーとしても安心感を覚えるのです。
まあ、このやり方では極端な緊張感は生み出しにくいし、あまりにも端的な表現にも向いていないだろうとは思います。
ともすれば冗漫に思えるやりとりの中で、ゆるやかな感情の起伏や穏やかな日常のありがたさは描かれるものだからです。
そして、LAKOさんと言えば、アレですよね。言葉にすると身も蓋もない感じがありますが。
がっちりむっちりとした壮年男性が、顔を赤らめ目を蕩けさせる表情には、実にクるものがありますよね!!
しかし改めて、誤解の無いようにここは強調したい、LAKOさんの描くそうしたおっさんからは、気持ち悪さが限りなく薄められています。
まるで少年少女のような初心さ、純真さで、「いい年こいて」と自らを恥じる姿がかわゆいのです。
本作のヒロイン、オウレン師匠は、まさにそうしたかわゆいのかたまりです。
未プレイの方は「相変わらずお前は何を言ってるんだ」と思うでしょうが、本作をプレイした方なら、このおっさんがメインヒロインであることに、ほぼほぼ異論が出ないだろうと思われます。
反面、男性的な魅力という点では、やや欠けるところが大きい人ですね。前作のセバスチャンと比べるのは、さすがにちょっとかわいそうと言うか。
セバスチャンは執事です。妻帯者で、英国紳士です。ちょっと抜けてるところはチャームポイントに成りこそすれ、きっちりと決めるところは決められるイケメンです。フェルミお嬢様が惚れるのも納得がいきます。
では師匠は、と言えば……決めるところで決められないんですよねえ、彼。
メイメイ以外の女性の影がまったく見えないというのも、それはそれでどうなんだ。
何より、鈍感力がちょっと強すぎるのです。世間ではそれをデリカシーが無いと言います。
メイメイを女として意識しているのかどうかも、かなりあやふやです。女だと意識していたら、純真なお師匠のことです、稽古の時うかつに身体だって触れないんじゃありませんか?
自覚が無いから、平然と触るのです。そしてメイメイから「やらしいところ触った」と言われて初めて、顔を真っ赤にして反論する。中学生みたいに。
メイメイはお師匠を「セクハラ親父」などと呼びますが、スケベではなく、むしろ全く逆というところに、お師匠のかわゆさがあるのです。
鈍感力は、それはそれで必要なものではあるけれど、自分に正直に生きられずに損をするって面も、あるんですよね。
そんな可愛らしくも頼りないお師匠ですから、メイメイとの関係も当然、セバスチャンとフェルミとは異なってきます。
ただ、お師匠が抜けてる分をメイメイが補っている、という関係でも無いんですよ。
メイメイはどこまでもマイペースで、他人から何か言われても気にしない、動じない性格です。
そりゃあ、「ふっくらしてた方がかわいいぞ」とか言われたくらいで敏感に反応してたら、この師匠相手じゃやってられませんからね。
でも、動じない理由は、メイメイとお師匠ではだいぶ異なります。
メイメイの場合、自分に無条件の自信を持っているからです。
「格闘技チャンピオンだから」とか、「美少女だから」とか、そういう理由一切無しで根拠の無い自信を持てることは、幸せだと思います。幼少期に、無条件の愛情を受けて育ったことが窺えます。
その分メイメイは、自分のやりたいことに対しては人一倍敏感です。
やりたいと思っていることはとことんまでやるし、やりたくないことは決してやろうとはしません。
正直で、ブレがないメイメイだから、お師匠もすっかり油断していられるのです。
……油断してる場合じゃないんだけどな。ひとたび人気が出たらメチャクチャモテるぞ、こういう子は。
そんな2人の関係は、この大会出場をきっかけに、ドラマチックに、しかし穏やかに変化していきます。
色々な人との出会いを通じて、メイメイは人間としても大きく成長していきますが、日常はいつでも、どこまでも穏やかに続きます。
こういう穏やかな日常の機微にこそ、LAKOさんの魅力があるとボクは思うのです。
では本作の評点をどうするか、と考えると……こうなっちゃいますかねェ。
- ハマリ度 : 8 / 10
- ここまでの評論を踏まえた上でなお、LAKOさんの描く穏やかな物語と、本作の戦闘一辺倒なシステムのかみ合わせには疑問が残る。
探索RPGなら、プレイヤーが調べたり、特定の行動をすることでイベントが始まる分、納得感がある。本作で立ち寄れる場所は3箇所しか無く、いずれも闘技場を突破するために必要があって立ち寄っているのに、ランクを突破する度にそれぞれで長尺のイベントが発生する。スキップすればいいと言っても、邪魔物扱いされていることに変わりはない。
最近はやりの、条件を見たすとストーリーが開放されリストに追加、見るタイミングは任意とするやり方も、システムだけで考えればアリ。しかしそのやり方で、LAKOさんの描く空気感が十分に伝わるかは不安がある。
このチームには、もっと色々なジャンルを開発することを今後とも期待していきたい。
NORMALのプレイ時間が1時間~というのは、さすがに2回目以降のプレイヤーの話だろう。初見プレイヤーなら数倍以上かかる、という情報の方が有益。- グラフィック : 10 / 10
- 立ち絵も背景も敵キャラもエフェクトも、あまたある描き下ろしグラフィックだが、この安定感はさすがの一語。UIのわかりやすさもお見事。
フォントの垢抜けない感じは意図したものか不明だが、本作の中華色に対していいアクセントになっている。- サウンド : 9 / 10
- 全曲書き下ろし、8曲と少ないながらも必要な数は揃っている。
どこまでも続く日常の中の起伏を描く、本作のシナリオにマッチした穏やかな曲調が良い。ウディコンってケモしか勝たん印象があったんですが、明確にケモな作品が優勝したのって、全13回のうち4回くらいでしょうか? 偶然、誤差の範囲ですよね?
出場者の皆さんにはこれからも、遠慮無く自信の性癖を晒していただければと思います。年齢制限の付かない範囲でな!