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■ 触手を売る店

触手を売る店
作者 [ Achamoth さま ]
ジャンル [ 放置系育成シミュレーション ]
容量・圧縮形式 [ 35MB・ZIP, ブラウザゲーム ]
製作ツール [ RPGツクールMV ]
言語 [ 日本語 ]
配布元 ダウンロード先

(補足)
2021.07.11:スマホアプリ版のダウンロードはこちら。(iPhone, Android

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レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 9 /10 10/10 9 /10 52/60 B
赤松弥太郎 8 /10 8 /10 8 /10

 《 ES 》  ハマリ度:9 グラフィック:10 サウンド:9

そう、これも音楽。アジアンでサイバーなパンク。

「RPGツクールでスマホアプリ風の放置ゲームを作る」…このコンセプトの下、RPGアツマール(現「ゲームアツマール」)にて数々の実験作が生み出されてきました。今回のイチオシ作品である「触手を売る店」も、そんな実験作の1つでした。
リリース当初から、その独特の世界観と美麗なグラフィックで話題となった「触手を売る店」。2021年6月のスマホ版のリリースを機に、改めて当サイトで取り上げようと、久々に起動してみました。
「アジアンテイスト」という怪しさと美しさが混濁したカオスな世界観。触手・顧客・そして主人公自身という様々なエピソードが1つに繋がるストーリーライン。そんな「物語」を放置育成で手軽に楽しめる作品なのです。
しかし、本作は4年も前に作られた実験作。Achamoth さまへレビュー申請と共に、かなり重大なバグを報告したところ、「過去にパソコンの故障のため完成版プロジェクトデータが喪失しており、アップデートが一切行えない状態にあります…」と報告されてしまいました。それ故に、現在も随時アップデートを行っているスマホ版に比べると、「触手の生長状態が光でしか判別できない」「種別を見る場合は1株ずつマウスクリックで調べる必要がある」「触手は自動湧きせず、下水道マップを逐一移動してジャンクを集める必要がある」など、不便な箇所があります。
また、ストーリーを完結させるだけならば単純に触手を集める→店主に売り払うというループをするだけで達成できますが、いざ「触手図鑑のコンプリート」を目指すとなると、様々な組み合わせパズルとリアル運勢が絡みます。

2021年6月末にスマホ版「触手を売る店」がリリースされたことで、フリゲ版「触手を売る店」にさらに楽しめる箇所が増えた点も、当サイトが「触手を売る店」をイチオシにする理由の一つです。
スマホ版はフリゲ版の「前日譚」であることが、Achamoth さまより明言されています。

【フリゲ版と激辛イチオシレビューのお知らせ】
触手を売る店のお話は全部見ましたか?実はアプリ版のお話は、2017年発表のフリゲ版の前日譚。フリゲ版で続きを体験できちゃうんです🐙https://t.co/G7OdBH4OtA

— Achamoth🦋 (@Achamoth_cr) July 7, 2021

フリゲ版では図鑑>拾ったもので見れる「残留思念」で朧気に分かるのみであった「犠牲者たちのエピソード」が詳細に読めるようになりました。フリゲ版では文章でしか表示されない10名の「犠牲者」が、新たにグラフィックを書き下ろされ、人となりが分かりやすくなっています。
逆に、フリゲ版をエンディングまで見てからスマホ版をプレイした方には、最初に登場する案内役の少年に驚いたことでしょう。「前日譚」という繋がりがあるからこその登場なのです。彼はフリゲ版・スマホ版共に重要な役割を背負っており、それ故に詳細はネタバレ要素に当たります。どちらから先にプレイした場合でも、彼がどこに登場し、どのような物語をめぐるのかを見ながら楽しめる仕掛けになっているのです。

スマホ版からプレイして、フリゲ版のストーリーが気になった方は、ぜひフリゲ版も合わせて楽しんでください。どちらも単体で完結している作品ですが、2つの物語を合わせることでより深みが出るという、「どちらからでも読める続編」として理想的なストーリー構成になっています。
ただし、フリゲ版には先述の通り潰しきれていないバグ、スマホ版に比べて育成・情報収集に手間がかかる欠点があります。1個限りのオートセーブ故に、バグに出会った際のロールバックもほぼ不可能です。幸い、ゲームそのものが進まなくなるレベルの重大さではありませんが、ご注意の上プレイしてください。


<ES的蛇足>
私の発見したバグの内容を、以下に記載いたします。
ストーリー中盤で手に入る「鍵」。その名の通り「ある場所」を開ける重要アイテムです。実はこの「鍵」も泉に投げ込めてしまいます。
一旦「ある場所」を開けておけば、鍵を失った状態でも再突入可能であるため、ストーリー進行にはほとんど害はありません。
ただし、鍵を泉に投げ込んだ以降は、所持品>拾ったものにアイテムが1つしかない状態では、泉にアイテムを投げ込めません。(「拾ったもの」全体で2つ以上所持していれば投入可能)
先述の通り、フリゲ版は現在サポート不可能な状態です。このバグを起こさないためには、「鍵」を泉に投げ込まないよう、プレイヤー自身が心する他ありません。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:8 グラフィック:8 サウンド:8

ゴーストタウンに朝日がのぼる

 一時期「民主主義最後の砦」などと呼ばれた、かの街ですが、日本人にとって馴染み深いイメージは、かつて存在したスラムを中心とした自由と混沌の街というものでしょう。
 入り組んだ海と山に挟まれたわずかな平地に、上へ上へと逃れるように立ち並ぶ高層ビル群。
 ネオンサインが無秩序に立ち並ぶ繁華街が溢れる光を放つ、すぐ隣で、無計画に増改築を繰り返したスラム街が濃い影を落とす。
 抑えきれないエネルギーを、無理矢理に狭い半島の中に押し込めた結果、歪み、澱み、溶解した、異形の街……
 そう、街そのものが、さながら「触手」のようなもの。
 本作の舞台として、これほど似つかわしい場所もありますまい。
 もちろん、これはあくまで心象風景であって、実在の街とはまったく無関係です。

 下水道に流れ着く汚物には、そんな混沌の街を生きる人間の、悲喜こもごもが詰まっています。
 ある者は、外の世界に夢を見て、叩き潰される。
 ある者は、分不相応な欲に身を委ね、溺れ死ぬ。
 ただ今生きている場所を守ろうとしただけなのに、理不尽に命を刈り取られる者もいる。
 過酷な世界ですが、それでも、たしかに生きた証が、ここには残っているのです。

 その一方で、主人公の生きている世界は、
 天高くそびえる触手の樹の根元、違法マンションに囲まれた水たまりのほとりは、静かに凪いでいます。
 主人公はこの水たまりを「大きな湖」と呼びますが、せいぜい池程度のもので、客観的に見ればとても小さな世界です。
 外の喧噪から隔絶されたこの場所で、主人公は、まったく乾燥した日々を送ります。
 「触手」という言葉から連想される、湿り気というものが、本作のゲームプレイには一切無いという点は、なかなか意表を突くところです。

 本作のゲームプレイは、どこまで行っても反復作業です。
 下水道でゴミを拾い、水たまりに撒いて触手を育て、その対価として動力源を手に入れる……
 プレイヤーが工夫できる余地は、触手の掛け合わせ程度で、それもすぐに頭打ちになり、あとはひたすら運。
 それでいながら本作は、プレイ時間を長引かせる仕組みが各所にあります。
 素材の収拾や触手の育成には、リアルの1分間という時間が必要になります。
 そして本作のUIはコマンド選択式ではなく、マップ探索型です。いちいちマップを移動して、調査ポイントをクリックしなければなりません。
 しかも、行動数を消費する度に、長めのウェイト演出が入るおまけ付きです。

 にも関わらず、この遅延行為は本作の決定的な短所ではありません。
 本作のストーリーが、システム相応にとても小さくまとまっているためです。
 触手の掛け合わせはすぐ頭打ちになる、と言いましたが、頭打ちになる頃にだいたいクリアする程度のボリュームです。
 1分間の待ち時間なんて、未読の図鑑やお客様台帳を眺めているうちに、あっという間に過ぎ去る程度の時間でしかありません。
 このボリュームにまとまったから、マップ探索というシステムにも、作品世界の空気を満喫する、というポジティブな意味を見いだせます。
 仮にコマンド選択式だったら、本作のプレイ感はより乾ききったものだったことでしょう。

 ただし、ここまでの話はあくまで、ストーリーをクリアするまでに限定した話です。
 全種類の触手をコンプリートして、おまけのご褒美グラフィックを見る、と決めると、話は変わってきます。

 本作のシナリオは、お客様台帳と、「拾ったもの」の図鑑で読める残留思念に集中しています。
 お客様台帳は、ストーリークリア時点で更新されなくなります。
 「拾ったもの」のコンプリートは運次第ですが、さして時間は掛かりません。ストーリークリア前後に完成するでしょう。
 これだけでは、クリア後までプレイを続けるには牽引力が乏しいのです。

 ストーリークリア後、動力源が無尽蔵になり、リソース管理の要素が無くなります。
 行動数の概念が無くなるついでに、ウェイトも無くなるおまけ付きです。
 そもそも霊酒は、制限としてはとても緩く、序盤で無理をしない限り0になることはまずないリソースなので、「管理する」という感覚はとても薄いものでした。
 しかしそれでも、ゲームのテンポを保つために、重要な役割を果たしていたのだということを、無くして初めて気がつくものです。
 一応クリア後も、触手には、バッドエンド専用アイテムを入手する、という役割があるのですが……
 ご褒美グラの条件には入ってないんだよなあ、これが。

 触手コンプリートの道は、それでもなお長く険しいのです。
 店主も言っているとおり、レア触手とレア触手を掛け合わせるには、博打が必要になります。
 素材となるレア触手の採取量も、種類毎に明らかに差があり、草のレアは大量に採れるのに、鱗や虫のレアはなかなか手に入りません。
 それでも、ご褒美グラのためだけにコンプリートを目指すか、というと……
 少なくともボクは、オススメはしないかなあ。

 ストーリークリアまでであれば、文句なく楽しめる作品です。
 初見クリアなら2~3時間程度なので、そこまではやってみてくださいな。

ハマリ度 : 8 / 10
 クリア後も、せめて触手を渡した時の反応が個別に違っていれば、と思えてならない。骨だけは個別台詞があるが、肉のレアやアレの卵を渡した時にも反応が変わらないのは、違和感しかない。
 「何かのカギ」を池に投げ入れられてしまう不具合や、中盤、素材が無いと樹に触手を与えられない仕様など、進行に影響のない細かい部分の不満も残る。籠の鳥というチュートリアルキャラもいるが、ヒントの出し方はやや不親切で、ゲーム慣れしていない人だと、グッドエンドの条件や、池で複数の触手を育てられることを見逃してしまうかもしれない。
 ボリューム設計が本作一番の評価点。ボリュームにきちんと見合うだけの残留思念テキストで、過不足無く作品世界を描ききっている。
グラフィック : 8 / 10
 タップ操作が基本である本作で、下水道マップが一画面に収まっておらず、スクロールしないと5個目の素材ポップが確認できないのが大きな減点箇所。あとほんの少しで一画面に収まりそうなところがイライラする。上述の「遅延行為」を思い返すと、わざとやっている可能性も否定できない。
 赤と黒を基調としたデザインコンセプトにはブレがなく、本作の妖しい異国情緒がストレートに伝わってくる。派手な演出が少なく、地味で淡々としてはいるが、台風の目のように停滞した主人公の世界にはマッチしている。
サウンド : 8 / 10
 音楽の種類は少なく、作業中は1種類だけを聞き続けることになる。作中の雰囲気にとてもマッチしているし、飽きが来づらい、「音楽再生推奨」と明記するだけの自信が感じられる選曲。クリア後は使用曲4種すべてを作業BGMに指定できるようになるが、自前で用意する人の方が多いだろう。
 SEも雰囲気は統一されているが、1つだけ、選択不能時の音だけがやたらとけたたましく、そぐわない。

 ゲームシステム上は、クリア後もこの狭い世界に閉じ込められている主人公ですが、きっと自由になれたんだと思います。
 自分の人生を生きるということ、それは自由な人間にしかできない特権なのですから。
 本作は公称で「童話」ですから、めでたしめでたしで話が終わったっていいじゃありませんか。
 ……いいと思いますよ、ボクは。不穏さから精一杯目をそらしたって。

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