■ 最果てを目指す
作者 [ Huyumi さま ] ジャンル [ ノンフィールド型RPG ] 容量・圧縮形式 [ 109MB・ZIP ] 製作ツール [ WOLF RPGエディター ] 言語 [ 日本語 ] 配布元
- (補足)
- 2019.12.08:現在の最新バージョンは1.20です。
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 9 /10 9 /10 8 /10 50/60 赤松弥太郎 9 /10 8 /10 9 /10
本作「最果てを目指す」は、かなり情報の細かいゲームです。敵の行動は常に表示され、自分の行動もどれだけのダメージを与えるのか、どれだけ敵のダメージを軽減できるのか、その全てが文章でずらっと表示されます。
そして、その情報を隅から隅まで把握し、抜け道を探らないと、とても立ち行かない難易度でもあるのです。何しろ、EP(プレイヤーの戦闘用HP)は最大値100固定。この条件で「ダメージ40」という攻撃が1ステージ目の「草原」から出てきます。このダメージをできるだけ防ぎ、望むべくはノーダメージで突破する、その戦術が問われるのです。
- 「妨害可」とあるなら、妨害を選んでノーダメージ
- 「防御無視」が無ければ、防御などを選んでダメージを軽減可能
- 「回避無視」が無ければ、回避を選んで50%に賭ける・もしくは意思追加で100%回避にする
- Spdが相手以上で、一撃で倒せる攻撃力があるならば、1ターンキルすればノーダメージ
様々な手段で、敵の対処が取れます。
もちろん、敵の攻撃はステージを進むほど激しくなります。少し進めるだけで「ダメージ50の5回攻撃+防御不可+回避不可」など、まともに通すと一撃死の攻撃を当たり前のように出してきます。
勢い、こちらも1ターンキルを目指すほかありません。
実をいうと、私、締め切りギリギリまで「意思を使えばステータスの振り直しができるし、何なら戦闘中でもステータス画面は使える」ということに気づきませんでした。4ステージのあたりで「先手を渡すと絶対に死ぬ」敵に手も足も出ずに、意思3つを消し飛ばされて死ぬという失態を、無駄に繰り返していました。プレイヤーの脅威となるのは、戦闘だけではありません。むしろ、食糧が切れる、容量・重量が許容量を超える…など、行軍中のアクシデントの方が致命的です。
特に食糧切れが起きると、状況はどんどんジリ貧になっていきます。何しろ、「探索」で得られるアイテム数は「探索」を実行するたびに減っていくのです。最終的にはEP20消費で1個しか手に入らない…しかも、食糧が手に入るとは限らない状態に陥っていきます。
それでも、何か素材を手に入れたら確認しておく癖をつけておきましょう。「Craft」で素材を消費すれば、「前進時の満腹度消費を確率で無効」「暗闇や寒さなど、ステージのペナルティを無効」という貴重なアイテムが作れるのです。特に、ステージペナルティを無効にするアイテムは、高難易度のステージには必須です。使用素材を覚えておき、役に立つステージに着く前に作れるように計画しておきましょう。そう、本作はどの場面でも「計画」が重要になり、また「計画」を立てることが醍醐味となるゲームなのです。いつ襲い掛かるか分からない敵をノーダメージで突破するために、行軍中を苛むステージペナルティを無効にするために、イベント中の有利な選択肢を意思を使わず選択するために、そして、ツキとプレイヤーに「希望」と「心」を与えるために。
本作はポストアポカリプスな世界を旅するRPGですが、人々の交流を細やかに描写した物語でもあります。
- 力づくでは突破できない障壁を、プレイヤーのスキル、もしくはツキとの協力で切り抜ける
- 道中で出会う「モノ」の中には、プレイヤーと対話可能な「キャラクター」まで存在する
- 何より、困難を共に潜り抜けていくことで確かに芽生えるツキとの「絆」
数々の「物語」を、あなたはこのゲームを通して目の当たりにするでしょう。それは途中で潰える物語かもしれません。
しかし、そこで得た経験…具体的には、イベントで手に入る「心装:スキルのバリエーション」と、ステージクリア実績である「残滓:再開時に装備できるボーナス」は、次の「あなた」の心強い味方となるでしょう。もちろん、それ以上に前の「あなた」が得たイベント・敵ステータスなどの「知識」が心強い味方となるはずです。
時には、最初から困難な道を選ぶことも立派な作戦です。困難なステージを潜り抜けて得たアイテム・ステータス・残滓・知識は、より強力に次の「あなた」の助けとなるでしょう。
次に受け継ぐ際には、しっかりと死んでおくように。死なないと心装や残滓は次へ受け継がれません。初めて「洞窟」をクリアしたデータをニューゲームで消してしまった私の経験を、苦い戒めとして。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:9 グラフィック:8 サウンド:9
未来 悲しみが終わる場所
本作攻略のキーとなるのは、意思の力です。
いえ、プレイヤーの、ではなく。ゲームのステータスの話。
画面左上隅に表示されてる、赤いハート。あれが、意思ゲージです。
残機という意味だけではないんですよ、あれ。
クリアした方からすれば、んなアホなと思われるかも知れませんが、ボクはラスボスと戦うまでこのステータスの意味に気付かなかった程のトンマでして。
クリア後にこの、意思の汎用性に気付いて、とても悔しい思いをしました。
これを知ってプレイするのと、知らずにプレイするのは、感想がだいぶ変わってきます。
チュートリアルでも一応、説明してるんですけどね。
イベントのチュートリアルである、このシーン。
「通路を塞いでいる瓦礫を取り除ける技術があればいいんだけど、
今のあなたにはそんなスキルがないはず。
だから迂回するか、酷く消耗するのを覚悟で突破するか。選んでね」
というツキさんの助言に従って、一番上の選択肢は今は選べないのかー周回要素かなーなどと考えるから、ボクはトンマだと言うのです。
普通のプレイヤーであれば、気付くはずです。
チュートリアルでそんな意味の薄い選択肢を用意するはずがない、と。
一番上の選択肢の、「条件 重量挙げLv1」と書かれている部分にマウスポインタを当てると、チュートリアルでのみ、右クリックと表示されます。
そこで右クリックすると、意思を消費して、選択肢を選ぶことができるのです。
→しかし、チュートリアルでこのことに気付かないと、「右クリック」という親切なメッセージが出ることは二度とありません。
右下隅の ? アイコンでも説明が出ますが、気付いていないことに気付かないと、まず読むことはないでしょう。
最悪、右下隅の ? アイコンに気付かないことまであります。
ええ、ボクのことですが、何か。
「マウスオーバーすると「意思を消費」って出てくるけど、別に意思は減ってないよなー。ま、いいか」
と漫然とプレイを続けてしまうのがボクなんですよ。
同じくチュートリアルで、左上の表示は残機表示と刷り込まれてしまうのが、さらに問題を複雑にします。
→見比べれば一目瞭然ですが、こちらは意思の最大値が減少しています。
意味が大きく違うのですが、意思を消費する行動をしていないボクは、その両者の違いにまったく気付きません。
そして、意思を消費するコマンド、ステータスの再振り分けと心装の変更に描かれた♥マークを見て、さらなる誤解を生じます。
残機を消費するコマンドだと思い込み、選択することさえしないのです。
言うまでも無く、ステータスの再振り分けは最重要機能です。
エリアによって変わる敵の特性に対し、ステータスを再編成して適応するのは、本作の醍醐味と呼べる部分です。
さらに重要なのは、本作では戦闘中でもメニューが開けて、ステータスの再振り分けや心装の変更ができる点です。
敵のステータスを見てから対処余裕でしたってことですね。
ラスボス戦では戦闘中のステータス変更が半ば強制されますし、それまで知らなかった人でも気づくだろうと思います。
ただ、事そこに至るまで、意思というステータスの意味に気付かないのがボクなのです。とても残念ですね。
そういうわけで、無意識的に縛りプレイでクリアしていたボクなのですが。
不思議と、そのことを怒る気にはなれないんですよ。
むしろ、とても良いプレイ経験をしたと、感謝しているくらいです。
意思を使わない事による恩恵も大きいのが、理由の1つでしょう。
意思は強力であると同時に、とても貴重です。
消費した意思を回復する手段はただ1つ、休息を取ることだけ。しかも1ずつしか回復しません。
しかし、休息した時点で意思が最大値に達していると、代わりに「鋼の意思」というアイテムが手に入ります。これが強力なのです。
クラフトにより、「鋼の意思」は「誰かの願い」に変換でき、さらに「少女の夢」「少女の祈り」「少女の願い」という超・強力な戦闘補助アイテムに変換できます。
その効果は、付属のヒントにも、意思を使うよりこれらのアイテムで切り抜けろ、と書かれているほどです。
ですが、最大の理由は、本作が意思を使わなくても楽しいバランスになっている点です。
本作は、周回を重ねないと、なかなかクリアはできないデザインです。
周回を重ね、心装を揃え、残滓の枠を広げていかないと、後半のエリアはとても踏破できません。
屍を積み重ねて、エリアの特性や出てくる敵のデータを収集し、死んで覚えていくゲーム性なのです。
そうして考えれば、意思の力とは結局、死を少し先延ばしできる、ちょっとしたショートカットでしかないのですよ。
意思の力を使わないプレイは、どうなるか。
ステータスはいつもカツカツです。レベルが上がったらすぐにでも、ステータス配分と取得スキルを決めて、ダメージを抑えたい。
結果、イベントで選べない選択肢が大量に出てきます。
涙を呑んで選べなかった選択肢を見送り、次の周回では後悔しないようメモを取り、先に進めていく、その過程自体がとても楽しかったのです。
何度もやり直すだろうと覚悟を決めてかかったので、4週目程度でクリアできてしまったときは、「あれ? まだ調査中なのに」と惜しく思ったくらいでした。
その経験があったからこそ、ラストで、プレイヤー経験とストーリーがリンクして、感動も倍加したのです。
……まあ、ボクの経験は、8割方作者の想定外だと思っていて、レビューに書くのはためらいがあったのです。
意思の消費という選択肢は強力無比ですし、ゲームの大前提になっているはずの機能ですもの。
しかし、残りの2割くらい、まさか作者が意図してるんじゃないかという疑いも拭えないのです。
ただの誤解で済ませるのが惜しくなるほど、今回のプレイ経験は素晴らしいものだったもので。
……やっぱ、無いよなぁ。とすると、このわかりづらさ、評点としてはマイナスなんだろうなあ。
- ハマリ度 : 9 / 10
- ノンフィールドRPGの特性、「後戻りできない」ので「死んで覚える」という要素にクローズアップした作品。それとストーリーが密接にリンクしているので、没入感が高い。ヒロインであるツキの設定も、孤独感を感じさせず鬱陶しくもならない良い塩梅。
没入感を優先したからこそ、メタの説明がややおざなりで、上述のような不親切さも内包してしまった。それでも良いと思えるのは、プレイ経験とストーリーが地続きになっているからこそだろう。
アイテムまわりのUIは、1画面にリストが収まりきらなくなると、やはり使いづらい。スクロールを実装するのが難しいのはわかるが、直感的ではない。
- グラフィック : 8 / 10
- 素材の組み合わせはちゃんと練られている。そして安定のRド敵グラ。
UIは、選択肢右クリックのわかりづらさ、そしてメニューが茶一色で花が無い。せっかく画面も広いのだから、もうちょっとこだわりが見たかった。- サウンド : 9 / 10
- 選曲に安定感があり、静かに詩情を盛り立てる。この世界を愛おしく思えるのも、背景画像とBGMのおかげ。
ノンフィールドRPGというジャンルが生まれて20年あまり、まだまだこの表現には可能性があると思い知らせてくれました。脱帽です。
でもねツキさん、だからって、そんなに死に急ぐ必要は無いんですよ。ね、いのちだいじに、ね? 誰が尻拭いすると思ってるの。
まあ、それに付き合っている時点で、こちらの負けなんですけどね。憎めないんだよなあ。