■ 狂落天蓋
作者 [ なごみやソフト さま ] ジャンル [ 和風フリーシナリオRPG ] 容量・圧縮形式 [ 134MB・ZIP ] 製作ツール [ WOLF RPGエディター ] 言語 [ 日本語 ] 配布元
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 9 /10 8 /10 8 /10 51/60 赤松弥太郎 9 /10 9 /10 8 /10
罪人たちは惑い、それでも歩み続ける。
今回のイチオシ「狂落天蓋」は、フリーシナリオ型のRPGです。5つの大陸はどこからでも攻略できます。何なら、開始直後からラスボスの妖怪王に挑むことすらできます。
もちろん、ラスボスの攻略には道筋以外の難関があります。レベル・装備など、プレイヤー自らを鍛えなくては、全滅に一直線するだけです。
鍛えるにはどうするか…「狂落天蓋」での鍛える道筋は、多岐にわたり、なおかつ複雑です。
初めのうちは、4人の仲間を集める所から始めましょう。そして、この4人の仲間を集める道筋すら複雑です。
回復役「蒼無垢」や火力役「狼獄丸」を仲間にするには、ある程度序盤のダンジョンをクリアする必要があります。
役立つ状態異常を付与できる「紫ノ武」を仲間にする条件は、なんとカルトクイズ。解答を探し当てるためには、ある程度他の場所を攻略して、必要なアイテムや情報を取得する必要があります。
序盤も序盤で、こんな複雑な攻略手順が必要になります。その後も、「複雑な攻略手順」はより悩ましい形となってプレイヤーを襲います。
ボスを討伐して「徳の証」を手に入れるか、それとも頼みを聞いてイベントアイテムを手に入れるか…。
道行く人々の悩みを解決するために、何のアイテムが必要なのか…。
そもそも、壱狐たち囚人が犯した「罪」の真相とは…。
目の前のクエストやダンジョンをこなすたびに、様々な物語が開くのが、本作「狂落天蓋」の醍醐味の1つとなっています。もちろん、「目の前のクエストやダンジョンをこなす」こと自体が難関です。本作の戦闘バランスは、ステータスの数値よりも耐性が重要になっています。
メンバー5名は、それぞれ属性が決まっており、そのままでは弱点属性の相手にいいようにボコられてしまいます。それに対抗するために、「珠」を装備して敵に合わせた耐性を整えておく必要があるのです。
しかし、この「敵に合わせた耐性」をどうするかが、本作の最大の難関。当然のことながら、敵のパーティは属性混交。火の大陸だからと火属性耐性を上げていったら、強力な敵は木属性だった…などという悲劇がしばしば発生します。
※ 特定の属性耐性を上げる「珠」は、別の属性耐性を下げてしまいます。
属性耐性よりも状態異常耐性の方が重要になる場面も発生します。「最適性の装備・パーティ編成」を探る手順は、まさにパズル。並大抵のパズルゲーム以上に複雑で、外せば破滅、逆にハマれば攻略が非常に楽になる、ハイリスク・ハイリターンなバランスです。
その複雑な装備パズルを少しでも楽にするために、「珠」には絞り込み機能が入っています。装備選択時に3ボタン(シフトキー)を押すと、特定の耐性を持つ装備品をピックアップできます。
ただ、この絞り込み機能、装備部位ごとに再設定しないといけないのが玉に瑕で…。「時短」という意味ではまだまだ課題が残るシステムです。複雑なイベントフラグ、それ故に取り返しのつかない選択肢など、セーブを分けることすら追いつかない展開が、我々プレイヤーに襲い掛かります。
しかし、本作の本来の攻略は「周回プレイ」にあります。1周目では見逃していたフラグ、クリアしてから初めて分かる別ルートのヒントなど、2週目以降に役に立つ要素も「狂落天蓋」の中には多数散りばめられています。
1周目では「気になる所」から探してみましょう。それを解決するために駆けずり回ることは、必ず次のプレイでも役に立つはずです。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:9 グラフィック:9 サウンド:8
何一つ忘れたくないよ 少し苦い思い出も
オープニングのこの一連の問いかけが、本作のすべてを体現している、と言っても過言ではありません。
事前情報も何もなしに一周してみれば、この問いかけの意味が身にしみてわかるでしょう。
おそらくはやり直したいという思いに駆られるはずだからです。
フリーシナリオRPGにおける「フリー」の意味とは、大きく分けて2種類あります。
ひとつは、イベントでの選択肢によって展開が変化する、「選択の自由」。
もうひとつは、イベントを攻略する順序によって展開が変化する、「進行の自由」です。
選択肢によって、攻略できるイベントが増減する。攻略する順序によって、他のイベントの選択肢が増減する。
フリーシナリオRPGは、両者が複雑に作用しあって成り立っています。
そしてほとんどの場合、過去に下した決定をやり直すことはできません。
目先の利益で選んだ選択のせいで、後々にやりたい展開ができなくなる、なんてことも、よくある話です。
本作は、特にこの進行順序がキーになるシナリオです。
最初から皆殺し上等であれば、倒す順序が変わる程度で、迷うことはほとんどありません。
しかし、罪の無い者はできるだけ殺さないようにしようと決めた瞬間、本作は高難度になります。
理想的なルートは、確かに存在します。
無益な殺生を避け、味方になる4人の罪人を救い、巨悪を倒してすべてに終止符を打つことは、1週目であっても可能です。
しかし、初見でそのルートに辿り着くことは至難の業、まず無理と断言しましょう。
あの時こうすれば良かった、と後悔しながらエンディングに辿り着いたプレイヤーの前に、周回引き継ぎの画面が現れます。
そしてプレイヤーは、再び冒頭の質問に直面するのです。
この自由と、隣り合わせの不自由こそ、フリーシナリオRPGの醍醐味である反面、面倒くさいところでもあります。
その面倒くささを乗り越える何かがなければ、周回プレイなどしないでしょう。
本作では、ボスに付けられた討伐報酬は、とどめを刺さないと手に入りません。ボスがドロップする以外の方法で入手できないアイテムも存在します。
殺害を回避するために、ずっと強い敵を倒さなければならないこともしょっちゅうです。
それでも殺生したくないと思うのは、ヤリコミとか、キャラ萌えとかではなく、世界観に惚れたからだと言えましょう。
本作の世界観は、知れば知るほどシビアで生々しいものです。
まず、仲間になる4人の囚人たちのストーリーが目を引くことでしょう。
普段は女同士イチャイチャして過ごしている連中ですが、彼女らの犯した罪は、決して軽くはありません。
そこに至るまでの、彼女らの背景は十分に同情に値するもので、非常に凄惨です。
ダンジョンを進むと語られる、かつての英雄たちの物語も、その言動は決して褒められたものばかりではありません。
ろくでもない動機で、傍迷惑な状況を生み出し、犠牲を出すこともしょっちゅうです。
真面目に捉えると、かなりダークな世界には違いないんですよね。
でも本作は、字面通りの深刻さだけではない、ユルさが確かにあるんですよ。
ロクデナシもたくさんいる世界ですが、誰も彼もみな人間くさいのです。
4人の囚人たちにしても、会話を繰り返し、ともにイベントを進めていくと、どうにも憎む気にはなれないじゃありませんか。
だからこそ、なぜ罪を犯してしまったのか、その背景を知りたい、という興味も湧くわけで。
町の人々も、陰陽連の職員たちも、討伐対象の妖怪たちでさえ、向けられる目が温かいんです。
民家の床下に住み着いている、爆発性のネズミにさえ同情し、「なんとかしてやれないか」と助命を請う台詞も、この世界だからこそ成立します。
だからこそ、回避できたはずの戦いをして、とどめを刺してしまった罪悪感も大きくなるのです。
手に届く範囲で、できる限りを救いたいと願うのは、人情として当然じゃあありませんか、ね?
……以上、まだトゥルーエンドを見ていない段階でのレビューでした。
最大の原因は、回向の間封印なんて縛りプレイをしてしまったこと。
どうしてもHP4000の壁が越えられないんですが、何か方策はありますかね?
そしてもう一つ、これ以上進めるとなんとなく、ボクにとってはつらい展開が待っている予感がするので……。
評点しましょう。
- ハマリ度 : 9 / 10
- プレイヤーの誘導は見事で、「謎解き」としてもわかりやすい。一本筋の通った作品。
戦闘は五行属性を採用しているが、結局はいつもの耐性パズル。慣れていない人は、戦闘中に相克図を表示できるオプションが本部にあるので、そこで設定すること。慣れている人は、色が本来の五行と違っていたり、雷が木行ではなく金行扱いだったりする点に注意。
ザコ敵全90種に対応する珠だが、装備品としてはそれぞれに個性があり、ボスに備えようにも穴なく揃えることはほぼ不可能、という点で興味深いバランスになっている。ただ、検索機能は強力ではあるがあまりにも種類が多すぎ、特に消耗品としてはとても使いづらい。
次元牢獄の鍵などの使用頻度の高いアイテムが下段にある、せっかくの会話システムもメニューの奥にあって使いづらい、等々、まだUIには洗練できる部分がある。- グラフィック : 9 / 10
- 一目見ただけでなごみやソフトだと理解させる、なごみやさんのキャラデザと絵力は今回も健在。本作のユルさを下支えしている。ブランドイメージとしてはとても強い武器である。
ただ、ぴぽ屋や誰そ彼亭のような素材と親和性があるかというと、やはり疑問符は付く。- サウンド : 8 / 10
- バランス良く手堅くまとまった選曲でありながら、バリエーションは意外と幅広い。特に戦闘曲が心地よい。
声を入れるのは構わないのだが、タイミングや音量がバラバラなのが気にさわる。できればもう少し落ち着かせてほしかった。他の注意点としては、本作は全編ゆりんゆりんなので、苦手な人は気をつけて、というところでしょうか。
ボクのお気に入りは、まあ、ミズチの支部長さんですかね。こじらせすぎでしょ、あの人。
例の「脅迫」の場面といい、どうしてああいう言い方しかできないかなあ、君は!
今後ともぜひ、己の欲望に従順に生きてほしいと願うばかりです。