■ 人類滅亡後のPinocchia(ピノキア)
作者 [ 饗庭淵 さま ] ジャンル [ SFアンドロイドRPG ] 容量・圧縮形式 [ 150MB・ZIP ] 製作ツール [ RPGツクールMV ] 言語 [ 日本語 ] 配布元
- (補足)
- 2023.06.28:ゲームアツマールのサービス終了に伴い、リンクを変更。
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 8 /10 10/10 8 /10 53/60 赤松弥太郎 8 /10 10/10 9 /10
《 ES 》 ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:8
(ジャン♪)資源は大切にね!
前回の「マイコンスレイヤー」といい、今回の「Pinocchia」といい、いかに我々ユルゲーマーは「全回復施設」に頼り切っていたのかを痛感する作品でした。
今回のイチオシ「人類滅亡後のPinocchia」は、どうしようもなく削れていくリソースを、いかにドロップ物品で補い、いかにアイテムで損耗を減らし、時には味方を「解体」してリセットする…と、非情な選択を迫られる流れになっています。
リソースの厳しさは、拠点のない本格的なノンフィールドRPGやローグライクよりは優しいですが、逆にローグライクのように「一発死んですぐさま再プレイ」とするにはあまりに長いシナリオ量の作品です。リソースの収支を計算しなくては、とても立ちゆきません。プレイの中で一番ネックになるのは、「1日休んで回復するのは主人公のHPのみ」という点です。主人公を支えてくれるアンドロイドたちは、当然ながら寝ただけでは傷は治りません。拠点にもアンドロイドの修復施設はありません。アンドロイドのHP回復のためには、コストの高い「修理キット」か、記憶と経験ごとリセットさせる「解体」しかありません。ストーリーを進めれば「修復カプセル」が出てきますが、この効果は「すぐに全回復するわけではない」「預けたアンドロイドは取りに戻らないといけない」と即効性という点ではあまり役に立ちません。
投稿レビューのコメント時点では「解体は宿屋+クラスチェンジの代用と割り切れ」と記載していましたが、これは半分以上間違ったコメントでした。
「解体」では、アンドロイドのレベルまでリセットされてしまいます。付き合った時間が長ければ長いほど「解体」のリスクは高くなるのです。それこそ愛着以上に。
かと言って、「壊れるまで使い潰す」のはワーストレベルの悪手です。アンドロイドが破壊されると、「残骸」として主人公のリュックに詰め込まなくてはいけません。この「残骸」がメチャクチャ重いのです。おそらくはそれまでに集めた部品はほとんど捨てることになるでしょう。修理のための日数+1、あまつさえそれまで重ねた経験もパーとなります。
「HPが減るほどアイテムの回復量が少なくなる」という特性上、アンドロイドのHP管理は主人公以上に厳重に行う必要があります。特に、序盤は回復量の少ない「応急修理キット」のみで殺人マシンの山を乗り越えていかなくてはいけません。充分なアイテムが集まるまで、素材集めを辛抱強く繰り返す必要があるのです。そんな厳しい道中を癒してくれるのも、また仲間のアンドロイドたちです。言動や属性(二次元的な意味で)が様々に異なる美少女型アンドロイドたちが、事務的ではありながら時には感情さえうかがえるアドバイスを、こちらに投げかけてくれます。
修復しようもなく傷ついたため、もしくは新型に生まれ変わらせるために解体機に投入する際にも、彼女たちは気丈にも寂しそうにも取れる一言を、こちらに投げかけてきます。
「次はもっとうまくやろう」と思わせる仕掛けを、この短いセリフに仕掛けているのです。
そんな彼女たちと長く付き合うためには、彼女たちだけに戦闘を任せていてはいけません。主人公の「攻撃」は微々たるものですが、「アイテム」はアンドロイドたちの一撃をはるかに超える威力のものばかりです。最初の「手榴弾」だけでも「アイテム1個でアンドロイドの30ダメージがチャラ」という大きすぎるアドバンテージがあります。
この「アイテム」は主人公しか扱えないコマンドです。どの戦闘でアイテムを使うのか、ボスを超えるのにどれだけのアイテムを持てばよいのか、その判断こそが「Pinocchia」の難しさであり、また醍醐味でもあるのです。
まずは、手榴弾と攻撃型アンドロイドが手に入るまで進めてみましょう。そこで「赤熱刃」の強さと、それだけに任せることの愚かさを学べるはずです。
「Pinocchia」には一手一手に「全滅に繋がる些細なミス」が入り込む難易度になっています。それに対抗するには、綿密なリソース管理と、複数セーブしかありません。「ここはリセットできない」と思ったら、クイックセーブを取り、「退却する勇気」を持ちましょう。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:9
あいつも夢を見るのだろうか 誰かを愛しているのだろうか
皆さんご存知の通り、饗庭淵さんは、魅力的な女の子を書ける人です。
カリスとか、黒先輩とか、もはや例を挙げる必要もないかと思います。
では、本作のアンドロイドたちはどうか?
はい、絵は性的に、とても可愛らしく描けてます。
しかしながらその扱いは、とても乾燥しています。
たとえばカリスと、本作の汎用型を比較すれば、人間により近いシルエットをしているのは汎用型です。しかし、どちらが人間らしく感じられるでしょう?
ボクは初回プレイ、リザルトによれば、アンドロイドを16体溶かしてクリアしたそうですが、ボクはいちいち数えていません。良心の呵責なんて感じませんでした。
どうしてこう、なんの感慨もなく、可愛らしい彼女たちを事務的にスクラップできるのでしょうか。
システムがそのように出来ているからというのは、1つの大きな理由です。
最序盤。資源量は乏しく、敵の攻撃は激しく、製造できるアンドロイドは性能の低い汎用型のみ。
この状況下で、応急修理キットを逐次投入し、アンドロイドの延命を図るのは、コストの面からきわめて困難で、現実的ではありません。
汎用型の場合、HPが1でも残っていれば、最大でもHP20しか回復しない応急修理キット1つとスクラップ & リビルドのコストが等しいという、バカバカしい等式が成り立つからです。
レベルを上げたところで大きな成長は感じられず、うかつに戦闘不能にしてしまえば応急修理キット7.5個分の資源が吹き飛ぶのですから、生かしたままスクラップにする以外の選択肢に、魅力はほとんどありません。
だいたいオープニングからして、全損した汎用型をスクラップ & リビルドするところから始まるじゃありませんか。
作中でも明記してあるとおり、汎用型は消耗品であり、積極的にスクラップ & リビルドを推奨しているのです。
それ以外の方法を採ろうとすると、さらに厳しい戦いを強いられます。
「カリスを殺すべきか否か?」みたいな葛藤をしている余地は、倫理道徳的にも、資源と時間の計算としても存在しません。
この「アンドロイドは消耗品」という認識は、損耗上等な技能を持っている攻撃型が前線を張る、第2階層まで維持されます。
ところが、防御型が加入する第3階層でバランスが一変。防御型を可能な限り温存して、すべてのアンドロイドのレベルを10以上に上げるゲームに変わります。
レベル10以上で解放される上級技能がないと、第5階層の強敵たち、ひいてはラスボスにはまったく対抗できません。
修復カプセルやシールド装置などが追加されていき、システム的にはアンドロイドを大切に扱い、温存する方向にはっきりと舵が切られています。
一方で、ボクの記憶の限りでは、プレイヤーとして意識が変わったのは、もっとずっと後だったのです。
それは、主人公がアンドロイドをそう扱っているという、もう1つの理由がずっと変わらないためです。
なんとなく目つきが似ているという理由で、ボクは彼をホア・ジャイとテキトーに名付けましたが、それくらいの扱いが妥当です。
彼は、しゃべらない主人公です。彼の言っているであろう台詞は、プレイヤーが補完するしかありません。
しかしそれでも、オープニングで殺人マシンが徘徊する通路へ出て行くことをためらった彼が、アンドロイドをスクラップすることに一切ためらいを見せないのは、彼にとっては「そういうもの」だからなんだ、とわかることです。
主人公とアンドロイド以外の人物が現れない本作では確実に、主人公のものの見方が、プレイヤーの世界観に影響します。
もしかしたら、アンドロイドに対して一切愛着を示さず、事務的にスクラップにする彼のやり方は、標準から外れているのかもしれません。
しかし、「標準」などなんの意味もありません。もはや、生き残っている人類は彼一人なのですから。
アンドロイドを駒として使う彼もまた、プレイヤーによって駒として使われる存在です。
序盤、司令官であるはずの彼が、前列に配置される機会は結構あります。場合によっては、アンドロイドを後列に下げてまで、前列を張ることすらあります。
なんと美しい種族を越えた愛? それとも孤独によって錯乱した哀れな人間?
違います。違うんです。
彼がアンドロイドを庇い前列に立つ理由はただ1つ。一晩寝るとどんな重傷でも全快するという、特異体質のためです。
他のアンドロイドとは違い、ノーコストで一日一回全快できるんだから、弾除けに使わないと損なんです。
にも関わらず、彼が傷を負い、HPが半分にまでなると、アンドロイドたちは必死で撤退を進言してくるんです。これが鬱陶しい。
タイプ毎に1種類の台詞しか設定されておらず、主人公がピンチになる度に、何度でも同じ台詞をしゃべります。
「ああ、所詮こいつら機械か」とボクは思いました。
こいつらが撤退を進言するのだって、主人公が死んだら人類おしまいという、本来の命令から発していることです。
一方でプレイヤーは、彼が死んでも困りはしません。リセットすればいいから。ゲームオーバー画面なんて、見飽きたんですよ。
防御型の加入により、主人公の生存率も飛躍的に向上しますが、扱いは向上しません。
物理的なダメージが軽減された彼は、栄養剤に手を出し、1日2回の突撃を敢行します。さながら旧日本軍のエースパイロットです。
スペシャルドリンクを飲んだホアは、今日も元気にドラゴンバックブリーカーし続けるのでした。
そういうことでボクは、人類の生き残りという主人公にも、人間らしさを見いだすことができません。
本作で人間らしいドラマがあるのは、記録文書の中だけです。
数百年にわたる危機の中で、変形していく過去の常識や価値観。そして相も変わらず愚かで、しかし愛おしい人間くささが、記録には満ちあふれています。
人類は、とてもバカバカしい理由で全滅しました。それだからこそ人間らしい、とボクは思います。
その最後を締めくくるのが、一体のアンドロイドとひとりの男の物語です。なんと人間らしい人間と、アンドロイドらしいアンドロイドでしょうか。
そこでボクは、初めて気付いたのでした。「主人公より、アンドロイドの方がよほど人間らしかったんじゃないか?」と。
いつだって決まった、タイプ毎に設定されたワンパターンな台詞を言うだけだと思っていた彼女たち。
でも一ヶ所だけ、ワンパターンではない台詞をしゃべる場面がありました。
それは、ボクが何度となく経験してきた、あのスクラップの場面に他なりません。
彼女たちが消耗品として設計されたなら、スクラップされる時でもワンパターンの定型的な台詞をしゃべるべきです。「機械なんだ」と安心させるべきです。
しかし、彼女たちは精一杯の未練を残します。バリエーションは多くはありませんが、台詞を選び、話します。
そこに彼女たちの、設計図どおりの量産型ではありたくない、という意志を、感じることはできなかったのでしょうか。
彼女たちよりも機械的だったのは、主人公であり、ボクだったんじゃないか?
……書き始めた当初、こういう感想は、あまりにナイーブすぎるのではないかとも思いました。
しかし〆切直前になってから饗庭さんの過去作品をプレイし始めて、なあんだこの人処女作からしてアレじゃないか、と安心した次第。
「mec」より後の作品で饗庭さんを知った方は、精神的な鬱グロゲーであることを了解した上で、今mecをプレイしてみるのも面白いと思いますよ。
まだカリスも黒先輩もろくにプレイできていないボクですが、多分作者さんの中では、mecも本作も18禁作品も、断絶しているわけではなく、すべて連続した表現なんじゃないかなあ、とテキトーなことを言うのです。
ダウンロード版をマウスでプレイした際の評点です。
- ハマリ度 : 8 / 10
- 経験値獲得画面が極端に重い。数回に1回、十秒程画面が固まることがある。こちらの環境問題だとは思うが、それ以外の場面は軽快に動くので、あのグラフ表示さえなければと疎ましい。
たしかに難度が高く、運要素も多いが、道中でいつでもセーブができるので、リトライをいくらでも繰り返して突破しよう、という設計。リソース管理の醍醐味は薄れるが、ノンフィールドRPG伝統のオートセーブ仕様でプレイヤーを脱落させるよりはよほど好判断。マゾゲーマーの方はノーセーブ・文章全回収プレイで本作の素材そのものの味を楽しもう。
マウス操作にマッチしたUIだが、セーブ画面のスクロール仕様には慣れが必要。探索画面でも、右クリックでメニューが開くようにした方が統一感が出ると思う。- グラフィック : 10 / 10
- UIデザインは洗練されていて、迷う要素が見当たらない。敵味方ともキャラデザは見事で、立ち絵とドット絵の統一感もバッチリ。
近寄らないとイベントポイントが判別できない仕様も、正確な移動を要求しない本作のデザインとはマッチしている。拠点をくまなく散策する気になる。- サウンド : 9 / 10
- ツクールストアの有料素材集のみを使用しており、納得の統一感。
コンセプトとして一曲毎のインパクトは薄いが、本作のような映画的な世界観なら、威力を十二分に発揮できると示している。オチはSFとしては定番のトリックですが、定番だからこそ、「なぜぇ!?」という定番のツッコミはしておきたいところですね。
いや、空間的・歴史的な連続性とか……そのままGOした、だったら夢が広がりますけどね。