■ ウォルターの大剣 EvilSeed
作者 [ ImaiBlast さま ] ジャンル [ 格闘ゲーム風ノベル+論理パズル ] 容量・圧縮形式 [ 277MB・ZIP ] 製作ツール [ RPGツクールVX Ace ] 言語 [ 日本語 ] 備考 [ R-15指定(15歳未満禁止) ]
[ 現在の最新バージョンはVer1.00 ]配布元
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 10/10 9 /10 8 /10 54/60 赤松弥太郎 7 /10 10/10 10/10
《 ES 》 ハマリ度:10 グラフィック:9 サウンド:8
若さ、それは振り向かないこと。愛、それはためらわないこと。
「ウォルターの大剣 EvilSeed」を一言で表すならば「Rough」。
鉛筆画ベースのグラフィック、「少年」と呼ぶには筋肉やほうれい線に皺が多いウォルターを初めとしたキャラデザイン、所々がダイジェストとなるストーリーテキスト、そして、理屈を求めず戦いのみを求める各々の生きざま…。
「粗く」「荒い」、そんな言葉がしっくりくるゲームです。
対して、ゲームシステムそのものは理詰めで解くジャンケンバトル…と言えば聞こえはいいのですが、「ランダム要素が無い」故に、「手を読み切ってしまえばパターンを繰り返すだけ」「読み切る条件があまりにも多く、一手一手が長丁場になる」「読み切っていなくとも、あいこならダメージが通るため、割とゴリ押しが通じる」と、かなり欠点の多いシステムです。
特に、「読み切る条件があまりにも多く、一手一手が長丁場になる」が困りもので、難易度を上げるごとに「読み切る条件」そのものが増えます。
・最も簡単な「ストーリー」では、敵の手は固定。勝てる手を連発するだけで勝てます。
・2つ目の「ハードレイン」から、マニュアル「ウォルターの大剣・ルール説明.htm」との首っ引きが必須。「戦闘する」の左下に表示される相手の「性格」、「両者のパラメータ表示」から分かる最も高い/低いステータス、「バトルログ表示」から見える前ターンまでの行動…戦闘メニューの全てから情報を取得し、「⑤性格表」にある条件と照らし合わせなければいけません。
・3つ目の「ブリザード」では、新たに「サプライズ指数」なるパラメータが追加されます。これは「ハードレイン」と同条件で導き出した手(以下、「ベースの手」)から「サプライズ指数」だけ裏をかいてくるもの。
ベースの手では「グー」を出す場合、サプライズ指数が「2」ならば、グーから2手裏をかいた手を出します。
グーに勝てるパー(サプライズ指数1)→パーに勝てるチョキ(サプライズ指数2)が次の手になるため、こちらは「グー」を出せば勝てます
…と言うことが「⑦サプライズ指数」を丸々割いて説明されています。
・4つ目の「デスストーム」では、ベースの手が「⑥上級性格表」に記載されたアルゴリズムとなります。当然ながら「⑤性格表」よりも分かりづらくなっています。その上でサプライズ指数も適用されるため、どれかの条件を見落とした時点で展開がシッチャカメッチャカになります。どうですか? 概要だけでここまで紙幅を消費する膨大なシステム、1ターン毎に読み切るのにどれだけ時間が掛かり、どれだけ疲れるか伝わりますか?
最も分かりにくいのが「サプライズ指数」。「ハードレイン」を余裕でクリアした私が、「ブリザード」に初めて挑んだ時、全く手が読み切れず、ステージ1からギリギリの戦いとなりました。
制作者であるImaiBlastさま自身ですら、「こちらでも説明に難儀している要素です。」と漏らすほどでした。
それでいて、「手を読み切ってしまえばパターンを繰り返すだけ」であるため、この長大かつ難儀な思考が苦手な方は、本作に悪印象すら抱くかもしれません。しかし、私は本作を見た瞬間、「これはイチオシレビューしなくてはいけない!!」と電撃のごとき衝動に襲われました。
赤松さんにも、「今までイチオシしたことのない傾向の作品でいいですね。」と好評だったため、そのまま押し切りました。
それほど、本作のインパクトは強烈でした。開発環境がリッチになり、個人製作でも市販ゲームと遜色ないクオリティに仕上げられ、個人製作ゲームが有料でバンバン売れるようになってから久しい現在、本作は珍しいほどの「かつてのフリーゲームらしい」熱を持った作品でした。
長所も短所も強烈な本作、赤松さんや皆様が気に入ってくれるか、いつも以上に不安でした。しかし、下のレビューの通り、赤松さんも欠点を指摘しながらも高評価を上げています。
あとは、皆様自身が興味を持ってくれれば、これほど嬉しいことはありません。
心配いりません。上のゲーム画面と、このレビュー文で、少しでも「DOWNLOAD」リンクにカーソルが向いたならば、きっと皆さまも虜となるでしょう。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:7 グラフィック:10 サウンド:10
勝ち続ける者だけが この世界支配するのさ
ゲームとしては、まあ、論理パズル? に分類されるんでしょうか。
ランダム要素無し、マスク情報無し、時間制限無し、プレイヤーが知ってる情報だけで次の手がわかるジャンケンです。
難易度を上げるほど、相手の手を確定するのに必要な情報は増えていきますが、本質的には変わりません。
相手の行動パターンを読むような推理も必要ありません。マニュアルに全部書いてあります。
戦闘開始前に「マニュアル読め」と言われますし、つまり、オープンな情報から相手の手を確定させて、勝てる手を出す、というのが本作の想定された楽しみのようです。
ランダムなジャンケンだけではつまらないのは確かですが、ではランダム要素もマスク情報も一切無いジャンケンが面白いかというと……うーん。
駆け引きや先を読む要素がゼロなんですよね。その時々で相手が出す手に勝てばいいだけなので。
ジャンケンに勝つのが当たり前になっちゃって、爽快感も薄いです。難易度が上がると、行動パターンがあまりに複雑すぎて「もーわからん! 運で勝負だ!」みたいな場面も出てくるかもですが、それでも運次第で勝てます。
クリアすれば行動パターンが変わる別モードも解放されますが、そこまでやり込みたいとは思えなかったなー……。
なのでボクは、本作は正しく雰囲気ゲーだと思ってます。
ストーリーを読み始めてまず感じる、あの空気、あの匂いは、本作でなければ摂取できません。
鉛筆で刻んだ、粗野で生命力溢れる線が、
必要最低限の色に抑えられた、白黒の世界が、
砂の惑星・イエローブリックの過酷さを、単純にして粗暴な男・ウォルターの溢れる生命力を余すところなく伝えます。
そして戦闘となれば、一癖も二癖もあるキャラクターたちが、彩りも鮮やかに躍動する。
これ以上、何を望みますか。
選曲がまた素晴らしい。個人的にはアコースティックをオススメしますが、ハードロックも悪くない。
音読さんに読ませた戦闘開始メッセージも、実によい雰囲気を作り出しています。
本作は泥臭いと同時に、スタイリッシュでもあるのです。
本作のストーリーもまた、子どもが落書き帳に書いたように自由で、奔放です。
エンディングを二種とも見て、ネタバレ込みのキャラ解説を読み込んだところで、この世界の謎は雰囲気でしかわかりません。
説明なんて不要なんですよ。
本作の放つ雰囲気を、ウォルターというまっすぐな男を通して、そのまま丸呑みしていけば、それで本作の意義は十分に果たされているのです。
さあ、言葉を語る時間は終わりです。
見ての通りの作品だということは、請け合います。
自分に合うか合わないか、ここまで読んだあなたの直感を信じて大丈夫です。
ストーリーを丹念に読んでも、2時間ちょっとで終わる作品です。駆け抜けましょう。