■ タテヨコ冒険譚
作者 [ リル姉 さま, nito さま, taroさま ] ジャンル [ 2D探索パズル ] 容量・圧縮形式 [ 167MB・ZIP, ブラウザゲーム ] 製作ツール [ Unity ] 言語 [ 日本語 ] 配布元 (ダウンロード版)
(ブラウザ版)
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 8 /10 9 /10 9 /10 53/60 赤松弥太郎 8 /10 10/10 9 /10
二人は未来へと進む。インクとなった「何か」を犠牲にして。
「タテヨコ冒険譚」…それはマウスで線を引くことでルートを広げ、指定手数内でゴールまでたどり着く、操作自体はシンプルなパズルゲームです。
しかし、本作で最も難しい箇所は、「線を引くための視界の確保」。シスター・羊飼いともに、アップになった状態でないと線を引けません。
線を引くための視界は、グリッド単位で言えば、主人公を中心にして上下左右に3マスまで。普段(歩行時)の視界だと上下は1.5~2マス程度しか視界が開けていませんが、ホイールを回すことで、上下3マスまでなら視界を移動できます。
※ 上または下に3マス視界を移動した状態で更にホイールを回すと、遠景モードになり、線が引けない状態となります。本作が何より難しいのは、「ゴールまでのルートに関係ない場所であっても、視界の確保のために引かなければいけない線が意外と多い」点。本作が「2人の共同作業」であるが故のシステムです。
グリッド1マス引くごとに1つ消費するインクが足りなくなっても、インク壺をクリックすれば補充は可能です。しかし、本作は全ステージがインクの補充なしにクリアできるように設定されています。
インクの補充なしにクリアすると、そのステージは「ベスト」と表示されます。ストーリーからほの見える「インクの正体」を考察すれば、ベストクリアがEND分岐の重要な条件となることは明白でしょう。そう、本作で必要なのは「発想の転換」です。
羊飼いを悪魔に引き渡さずにベストクリアも可能です。(ただし、物語の本筋は羊飼いを悪魔に引き渡す方ですが。)
インクが1マス分しかないステージもベストクリア可能です。その1本をどこで使うか…。他のステージには無いアレが、なぜこのステージには表示されているのか…。ベストクリアの道を探ってください。
実をいうと、私が最もベストクリアに苦労したのがこのステージでした。私も、おそらく貴方も、最初に見たENDは「どこかがベストクリアできていない状態」でのENDでしょう。
もしかしたら、「最終ステージクリア後の特殊ステージ」がクリアできずに強制終了した方もいるかもしれません。私もそうでした。
「最終ステージクリア後の特殊ステージ」のヒントを見るためには、本作でできる操作を全て実行しましょう。左クリックでの線引きも、右クリックでの操作キャラ交代もできない状態でも、あきらめずにクリックを続けましょう。きっとヒントが語られるはずです。
このレビューで、かなりネタバレ箇所に触れましたが、本作最大の攻略要素は「パズルの解き方」およびそれによって紐解かれる「物語の真相」。こればかりは、あなた自身の手で解き明かしてください。
現時点では、実況動画しか攻略情報が無い本作品ですが、できるならば、攻略ネタバレには頼らずにクリアしていただきたい。私は心からそう思っています。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:9
近道したいなら 遠くを見つめればいい
ゲームにおけるナラティブ論……物語を紡ぐ主体としてプレイヤーを捉え直す議論……も、浸透してずいぶん経ちますが。
パズルゲームでは、ここまで「物語る」ことを前面に押し出した作品は、なかなか珍しいんじゃないでしょうか。
タイトルで最初に登場する、「タテヨコ冒険譚」と名付けられた本。
本を開くこの演出以降、本作の物語はすべて、この本の中で進行します。
本作の主人公、シスターと羊飼いの2人。
2人はどちらも、自分が今いる「絵本の世界」から脱出して、外の世界に「帰る」ことを目指しています。
そして2人は、絵本の世界にペンで線を描き、崖を登り谷を渡る冒険を始めるのです。
このように、道具立てだけ取り出すと、メタフィクションの要素が目立ちます。
でも、実際にプレイしてどうでしたか?
プレイヤーの意識としては、メタフィクションだとはほとんど感じなかったんじゃありませんか?
大きいのは、キャラの視界の中にしか線が引けないという仕様です。
具体的には、自分を中心にした5×5のマス目の中でしか、自由に線を引くことができません。
マウスホイールで視界外の全体図を見ることはできますが、線は引けません。再びズームして、キャラ中心の視界に戻さないといけません。
「誰が線を引いてるんだ」「絵本の世界の中の2人が線を引けるはずがない」などの理屈をすっ飛ばして、直感的に、「この2人が線を引いてるんだ」としか思えない操作感なのです。
シスターは、縦の線しか引けません。羊飼いは、横の線しか引けません。
2人のスタート位置は離れていて、ほとんどの場合、ゴール目前まで合流することがありません。
結果必然的に、お互いをカバーするような動きになります。
視界をできるだけ近づけて、相方の行動範囲を広げられる線を引く。行動範囲を広げてもらったら、お返しとばかりに、相方の障害も取り除いてやる……
こうした助け合いの動きが、2人操作が可能になるステージ3から早速必要になります。
花やリンゴなどの仕掛けが増えても、この基本は変わりません。
「プレイヤーが介入してる」という意識は薄まり、「シスターと羊飼いが協力してる」というプレイヤー経験に自ずと導かれます。
ストーリーも、目標に向けての話ではなく、2人の交流が軸となって展開します。
しかし、この2人の気持ちは、なかなか交わりません。ゴール目前まで合流できないパズル面と同じように、です。
それでも協力は続きます。中盤になると、やがて2人の引くタテとヨコの線は交わりはじめます。
そしてストーリーも、その頃を境に、2人の気持ちも交わりはじめるのです。
こうしたストーリーとパズルのリンクもまた、プレイヤーが主体的に参加している実感に繋がっています。
非常によく計算された作品です。プレイヤーを物語に没入させる仕掛けに富んでいます。
しかしながら1点、本作には計算外の仕様変更があったのです。
本作のパズルは比較的容易な部類に入ります。おそらくは、時間を掛ければ誰でもベストクリアできる程度です。
それでも、初見ノーミスでベストを目指すのは至難の業です。どこかで間違えます。
しかし本作は、一度引いた線を取り消すことができません。
本にペンで描いた線なんだから、取り消せないだろ、というのはそれはそうなんですが……
メニューを開いて、ステージ最初からやり直すことはできますが、その都度10秒にも及ぶ演出が挟まります。
いくら何でもこれは不便だ、と気付いた作者が急遽追加した機能、それが、
「インクをつぎたす」です。
そうなんです、本作は当初、ベストクリア以外を想定してなかったんですよ。
ベストクリアしても、「おめでとう」の表示と、エンディングでの若干の台詞差分しか存在しないのは、それが理由です。
がんばってベストクリアしたところで、報酬は特にありません。結末は変わらず筋書き通りです。
そういうものだとわかっていても、ちょっと突き放されてしまった感じがあります。
そこだけはなんとかならなかったものか、と惜しみながらの評点です。
- ハマリ度 : 8 / 10
- エンディングについて、思い出したようにプレイヤーにメタ的に介入させる、シスターの隠しメッセージ、インクで線を描くことの不可逆性等々、意図した後味の悪さである点は尊重したい。だがプレイヤー視点で考えると、ベストクリア最後のメッセージのせいで、むしろ「何か回避する方法があるんじゃないか」という余計な期待を持たせてしまっている。
ベストクリアの盤面でないと伝わらないメッセージがあるのだから、必要だったのはむしろ、できる限り多くの人にベストクリアしてもらう方向性の促し方だった。ノーマルエンドとして別に、それなりの(バッド)エンドを用意して、あれは間違いなくベストエンドだったんだと納得させた方が、やり方としては巧い。ベストエンドは十分万人向けの難易度だし、敢えてパズルをプレイしようとしているプレイヤーをもっと信じていいと思う。
その点でも、リトライ演出が長すぎる。せめて半分くらいの長さならまだ納得がいく。ノーマルエンドの用意があったら、「最初にノーマルエンドを見てもらいたいんだろう」と好意的に解釈していたところだった。- グラフィック : 10 / 10
- 白黒で銅版画調の画風がとても可愛らしい。アニメーションもしっかり作り込まれており、きちんと空気感が感じられる。
- サウンド : 9 / 10
- 音楽もすべて自作書き下ろし。多くのステージで、弦楽調のシスターパートと管楽調の羊飼いパートのスムーズな切り替わりを体験できる。
反面効果音は少なく、線を引いたときとクリア時のSEくらい、やや物足りない。リンゴが落ちる音はあった方がわかりやすいようにも思うが、「絵本の世界の音は聞こえない」というのが一貫したポリシーなら仕方の無いところ。本作は、一度クリアしてしまうと再び通しプレイはできません。セーブ削除コマンドも用意していません。
全ステージベストを達成して、それでももしもう一度通しプレイがしたいなら、自分でセーブデータを探して削除してみてください。
たぶん作者が当初想定していた、本作の楽しみが味わえる気がします。……あくまで個人の感想ですが。