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■ trade▼off

trade▼off
作者 [ 与根金次 さま ]
ジャンル [ 学園ノベル ]
容量・圧縮形式 [ 360MB・ZIP ]
製作ツール [ 吉里吉里2 ]
言語 [ 日本語 ]
配布元 ダウンロード先

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レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 8 /10 9 /10 8 /10 103/120 B
牛人 9 /10 10/10 9 /10
DECOすけ野郎 8 /10 9 /10 9 /10
赤松弥太郎 7 /10 9 /10 8 /10

 《 ES 》  ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:8

超能力は等価交換。そして、人生も…。

本作「trade▼off」は、2012年の作品です。5年前と言えば、最近に思えますが、その間にも様々なトレンドが変わっていきました。
そして、本作は、2012年基準でも「古き良き」扱いされる学園ノベルです。2000年代の学園系エロゲーの影響を様々に受けています。
ギャグパートでは(時に空気を読まない勢いで)下ネタを放ち、逆にシリアスパートでは「男」を見せる主人公・割下惣二。
平和な学園生活に見えて、ストーリーを進めるたびに超常現象と不安な空気が入り込むストーリー運び。
しかし、それ以上に、様々なゲーム要素が本作には過剰なほどに詰め込まれています。

最初に目にするのが、メッセージウィンドウの右に表示されるグリッド。このグリッドをクリックすると、会話中であろうが(様々な意味で)取込中であろうが、視点を変化させられるのです。
序盤では、「ただ立ち絵処理を面倒くさくしただけじゃん」と思うシステムですが、この視点変更がフラグになっているイベントは、意外と数多いです。
時々発生する「好感度+」「エッチ度+」も重要ですが、話の中には、この視点変更が生存フラグとなるイベントも出てきます。
「…えっ!? 学園もので生存フラグ?」とお思いでしょうが、本作では、誰のルートをたどるにしろ、「ストーリーの裏で発生する超能力犯罪」と対面しなくてはいけないのです。ルートによっては直接対決もあり得るのです。
そして、もう一つの難点が、ゲーム紹介ページにもある「ミニゲーム」。紹介ページ内でも「難しいとよく言われますが」と書いてありますが、本当に難しいです。しかも、これでENDが分かれたりもするので、相当に緊張感を強いられます。

これらのように、本作のフラグ管理は見落としがちな場所が多く、CGコンプを目指すと、かなりの足踏みを強いられます。
ストーリー分岐は「フローチャート」で見れますし、細かいフラグはゲーム紹介ページ内にほぼ答えなヒントが掲載されています。
分岐をやりやすくするはずの「Day Select」は、今までのプレイ時点のフラグを持ち越したまま戻るので、戻る量を間違えると解放されないルートが出てきます。素直にセーブを複数取ってやり直した方がいいでしょう。「吉里吉里2」なので、Ctrlキーで文章スキップができますし。
ただし、文章スキップの乱用は禁物です。先述の「フラグ管理は見落としがちな場所が多く」の一つが、「文章内で視点変更ができ、絵をクリックすることで分岐する」要素があることです。文章スキップすることで、その分岐の一瞬を見逃してしまうのです。

大半のフラグ分岐は「フローチャート」で大体わかりますし、フラグのある場所についても攻略ページがあります。
本作は、それらのヒントに頼ってでも、実際に体験していただきたいものです。惣二とヒロインたちとの交流と背負った物の重さは、実際に貴方の手で物語を綴って体験していただきたい、それほどのクオリティがある作品です。
ちなみに、作者様の他の作品がロリ系なせいか、様々な面でシナリオに力が入っているのが夕子ルートです。…いや、制作年代から言って、作者がロリ系に走った切っ掛けが本作なのかも。それだけ、メインヒロイン扱いされているのが夕子なのです。

 《 牛人 》  ハマリ度:9 グラフィック:10 サウンド:9

”世界は完全にふとももとおぱいに満たされた”(原文ママ)

 18禁アドベンチャーです。本作の雰囲気を一言でいうと、古き良きギャルゲーです。物語は学園もの、かつ、超能力ものです。
日常描写をきちんと描写しているのでテキスト量は多めですが、胃もたれするのような量ではありません。
アドベンチャー部分には基本的な操作に加え、視点変更という変わった特徴があります。

 視点変更は世界が広がるので新鮮で面白いです。
しかし、大きな背景の一部しか見られないということでもあるので、見づらい点や、仕掛けが分かりづらいという難点もあります。
死角が多いので、恐怖描写に優れると思うのですが、おまけ以外では活用されておらず、少し残念でした。

 本作の特徴は、日常描写にあるでしょう。
日常描写が丁寧であることによって、本作の重要なテーマである「過ぎ去った輝かしき日々」や「同じ姿の別世界」といったものが際立っています。

 また、本作の重要なテーマに「記憶が消えるということ」があります。
これは、単なる記憶喪失というだけではなく、同じ行動を繰り返すという特徴があります。
そのため、過去に自分で仕込んだことを忘れる等、物語の重要なギミックになっているだけでなく、
相手は未来の結果を知っているという状況になるため、極めて高い信頼を寄せられたりします。

 あとは、なんといっても要所で光る作者のセンスでしょう。
真っ直ぐなものはへし折るだけで絵になることがわかる場面や、柔和でありながら芯がある対応をする場面等は、思わずうなります。
「網膜上の生足の面積」等、独特な描写も多々あり、注目点でしょう。

 難点として、ミニゲームの難易度が極めて高く、しかもクリアがハッピーエンドに必須である点が挙げられます。
私は速度変更ツールを用いなければクリアできませんでした。
おまけ要素としてあるのならともかく、メインシナリオ上にこの難易度はゲームのテンポを著しく害するものでしょう。

視点変更でHポイント獲得とかナイスセンス!
視点変更したら脱いでるとかたまらん!!
さらに、視点変更によりキャラクターの全身を舐めるように見られる。作者の足へのこだわりをひしひしと感じる。
エロのための視点変更・・・あると思います!細胞摂取の設定はエロの為だとしか思えない。
というか、この作品はエロから入って、設定やシステム考えて作られたんじゃないかというぐらい、エロとマッチしている。
そして、クライマックスは動く!作者夕子好き過ぎだろ!!最高だ!!!

ハマリ度:9/10
エロ良し、物語良し、ミニゲームが残念
グラフィック:10/10
クライマックスではびっくりさせられた
サウンド:9/10
オリジナルで良い

 いやぁ、エロってほんっとうに良いものですね。

 《 DECOすけ野郎 》  ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:9

話が楽しい分、シリアスパートは読んでいてつらかった

【あらすじ】

関西から転校してきた高校生、割下惣二(わりした・そうじ)は、学校でちっこい先輩こと佐倉夕子(さくら・ゆうこ)に出会ってしまう。
何だかんだで、夕子とその仲間は超能力者であるということを知ってしまい、明らかに元ヤンっぽい雪村摩織(ゆきむら・まおり)に秘密を話したら命はないぞ? と脅されつつ、割下たちは非日常的な、混沌とした事態に巻き込まれていくのであった。

<春乃ルート>
音楽室で、透き通るほど美しいアルビノの少女、長尾春乃(ながお・はるの)と、初対面で彼女に速攻で求婚を申し入れた米沢という愉快なやつに出会う。 割下のアプローチや下ネタに呆れつつ、たまに懐柔しつつそれなりに楽しい日々を過ごすのだが、春乃がとある一件で傷害事件の犯人だと誤認されてしまう。 果たして、割下は何が出来るのだろうか?
<実ルート>
初日にで出会った相川実(あいかわ・まこと)は、割下のアプローチや下ネタに対しツッコミで返しつつ、たまに殴りながらいろいろと仲良くやっていたものの、二人は学校内で噂されていた傷害事件に巻き込まれてしまう。果たして、この危機的状況をどのようにして切り抜けていくのか?
<夕子ルート>
佐倉夕子の妹、あすみと仲良くなりつつ、佐倉家に招かれたり、その父親に危うく半殺しにされそうになったりと日常をそれなりにも楽しんでいたのだが、そもそも何故夕子は他の超能力者を探していたのだろうか?何故、夕子はいつも悲しそうなのか?実はこれには想像もし得ない過去の因縁があったのだ…。

【総評】

ハマり度:8 / 10
面白い。最初主人公のノリについていけずムチャクチャだな、と思っていたが、アレでも一本芯が通ったやつだとは分かった時は納得がいった。
ボリュームはかなり大きく、特にメーンである夕子シナリオで釈然としていない所や、伏線をガーッと回収していくのでそこまで読むことを推奨。
CGやイベントやED制覇は盲点や落としやすいところが多く、作業的になりやすいのが難点か。何度ナイフでぶっ刺されたことか…。
詳細は後述するが、夕子シナリオでいきなりファミコンジャンプ並にゲーム内容が変わったのもちょっと面食らった。多分10回以上は負けた気がする。
グラフィック: 9 / 10
…については差分も含め文句はない。視点変更がちとつらいところが数カ所あり。
エロポイント回収は、初見だと絶対に分からないので割下になりきって進めてみよう。(特定のシナリオは、条件を満たさないと見ることができない)
差分は細かいので、いろいろ気をつけて見ていくと発見があるでよ。
サウンド: 9 / 10
オススメはトマトの茄子のやつです。あと回想の音楽が泣ける。

というわけで、ネタバレ部分はとりあえずは隠しておきましたが、これでも結構削った方だよ!

【とりあえず感じたこと&私的まとめ】

・日常シーンはシモネタと笑いのノリで進行していくのだが、後半はとんでもないことに巻き込まれる。
かなりシリアスな話になる。すき焼き君、というか割下君はかるーく気楽に生きているだけのやつだと思いきや、やる時はちゃんとやる子だし意地を見せます。
カッコいい。あれはヤバかった。
あのトイレ…おっとここから先は実際にプレイしてからのお楽しみだ!
にしても、適応力がすごすぎる。あとは、伏線やさりげないセリフの意味が分かった時は驚いた。夕子編のアレです。
・ポイントによってサブシナリオが開放されるんですが、これがしんどかった。
あれー?網羅したはずなのにダメだったんか、ということでかなり考えた上で進めないといけません。
やっていたはずだったが見落としがあった、勘違いしていた、上書きしたデータで進めていた、など色々要因はありましたが、時間に余裕を持った状態でプレイするのを薦めます。
・推奨は春乃→実→夕子ルートで
最初に実ルートに入ってしまったら死にまくりで折れそうだった、というのもあるし春乃シナリオでも実シナリオでも謎が多く残されたまま終わってしまいます。
普通に進めたら、夕子ルートは一番出すのが難しいので、間違ってもいきなり行くことはないでしょうが。
もっとも、夕子ルートへの行き方が分からず、気がついたら30分くらい延々と2日目を繰り返していました。何をやっていたのか。
・春乃ルートの難関ポイント
春乃が校舎からいなくなってしまった、ここですかね?
パソコンで調べているシーンあるもの切りつけられていたが、それは何故?本来ならありえないものが残されていたのは?ということ、これが超重要です。あとはくまなく探せばヒントが出てくる。というか、BAD突入後のヒントコーナーがすごく親切。
・実ルートの難解ポイント
刺されすぎ、あといい感じに進んだのにGood End到達できなさすぎというのを延々ループしてしまいました。
これをやって思い出したのが、1999 Xmas Eveの3章で教会内で殺人鬼に追いかけられるシーンだったんですが、あれよりは少ないけれども結構刺されましたね。あっちはボウガンだったけれども。
大事なポイントは
  • 夜道のシーンは数日前に見た視線は何だったか?、それを発見しないと刺されてしまいます
  • バッドエンドにヒントがあって屋上のシーンで突撃に失敗した場合は選択を途中でミスっています
  • コロッケエンドになってしまう場合はまだ大事な何かを見つけていません。決定的な証拠を見つけられたらそれがGood Endへの手掛かりとなることでしょう。
  • 無腰で五十鈴相手にサシでやっても勝てるわけがないので、その他の方法を見いだしましょう
・夕子ルート
春乃ルートから分岐しますが、既読スキップをしまくるとすぐに春乃ルートに行ってしまいます。フローチャートにヒントがあるでよ。困ったときはそこさえ見ればだいたいなんとかなる。
最初はお気楽な感じに進む、オヤジ、これまで何人半殺しにしてきたんだろう?と思いを馳せつつ、家族交流ありとのどかな日常シーンが続くのですが、どんどんシリアスになり、話の核心そのものに飛び込んでいきます。
いろいろ大変なことが起きてしまいますが、一つ言えることは、以前みたいにはもう読めない、ということでしょうかね。背負っているものがここまで大きいとは思わなかった。
にしても…ミニゲームで勝てねぇえええええええええ!あああああ!こういうのは苦手だったんだ。しょうがないね。反復横跳びでも負けまくったからね。キーボードを使っても勝てなかったから。
読むのは得意なのに…いっぱい練習すれば真相を見届けることができます。
あと、ラスボス、いろいろな意味でラスボスだったよ。
・フラグ管理が厄介
このゲームは到達したときのパラメータを維持した状態で、日付(ルート)選択が出来るんですよ。
ただ、パラメーターを満たしていない、またはやり残したことがある場合はやり直しをしない。
あと、既読スキップだとフラグすら飛ばしてしまうところもあるので、そこを注意して進めなる必要がある。やり直しがキツかった。
・エロ
本編でのエロは少なめ。後日談というか、これまでのルートをクリアしてきたことへのご褒美という意味合いが強い、ような気がする。
結構(作者の趣味が多大に含まれた)マニアックな、アブノーマルなものが多しといった感じですが、カラッとしていますし、描写はライトです。
にしても、エロ方面でもかなりぶっ飛んでいる姉や一家だったから、弟の性癖がここまで歪なものになったのでは…?

【おわりに】

長い時間じっくりかけて進めることを推奨。途中でフラグ管理がややこしくなるため、ルート回収が結構めんどいしノーヒントでクリアをするのは難しい。
それでも、出来ることならば夕子ルートまで読み進めて欲しい。

話はどのルートも面白く、お気に入りのキャラクターも、それぞれ出てくるんじゃないかと思います。個人的お気に入りは実でした。
あと、最後のおまけが単なるおまけかと思いきや怖いシーンあり、裏話もありでまさかの展開でした。
っていうか、オヤジ!本編ではお硬いっていうか怖いお父さんだったけど、おい、オヤジ!結局、オヤジが裏ラスボスだったのではないか?という結論に至る…。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:7 グラフィック:9 サウンド:8

その時が綺麗なら 無茶も楽しいParadise

 本作、ネタバレしてでも語りたいことが山ほどあるんですよ。なので早速のネタバレボタン。
 誤解しないでほしいんですが、本作は意表を突くどんでん返しは特にないんです。ごくごく王道、正統派のエロゲです。
 ただ、クリアした後、色々と引っかかるところが出てきてしまったのです。……あくまで個人的な感想なんですけどね。
 クリアしても特に引っかかりなんか感じなかった、という方は、特にネタバレボタンを押す必要はないです。
 未プレイの方は、基本的にノリの軽い作品なので、あまり考え込まず、笑って楽しめばいいと思います。

 ……でも、ネタバレボタンを押してしまったあなた。
 考え込んじゃったんですよね、あなたも。
 本作のストーリーには、考え込ませる側面が確かにあります。
 そもそもテンポがゆっくりで、ノリと勢いで押し切るようにできていません。かなり重いテーマを、敢えて扱っているところもあります。
 しかし、真面目に考えれば考えるほど、本作はモヤモヤしてくるんですよ。これでいいのか? と。
 全シナリオをクリアして、最後の大団円まで見てもまだ、モヤモヤしているあなたも、一緒に考えてみませんか?

わりした・そうじ  こういうノリになったのは、だいたいこの割下 惣二(わりした そうじ)のおかげです。
 女の子大好き、いつも心に下ネタを。いかにもなエロゲ主人公であり、まるでモテません。
 一応フォローしておくと、対人スペックは高いんですよ彼。空気が読めるし、気遣いもできる。本質的には優しい男なんです。
 ……空気読んだ上であんなセクハラぶっとばしてるわけで、本当に救いが無いんですけどね。
 幼少期から転校が多く、クラスに溶け込むのは早いけれど、長く続いている友人が一人もいない。一歩踏み込んだ関係になれない。
 「告白する直前にビビってジョーク言って逃げそう」との評は本人も否定してません。臆病だから、おちゃらける。
 そりゃあ、本当に好きな子を守るためなら真剣になるし、誠意をもって尽くしますよ? 「付き合うのも当然」って説得力はあります。
 ただ、平常時にはそうした侠気、格好よさを見せられる場面なんてそうそう無いわけで……。

 ……ハプニングが無ければ、当分彼女などできそうもない、そんな彼。いい人なんだけどね。
 彼の嫌味のなさ、重みのなさが、本作のシナリオの方向性を決めています。
 彼のノリの軽さのおかげで、重い話にならずにすんでいるんですよね。

 その軽さは、いい面でもあるし、悪い面でもある、ってことなんですよね……。
 彼はやらかします。それもしょっちゅう。後先考えない行動で、だいたい問題が起こる。
 たしかに割下はそれぞれのルートで、起こってしまった事態に対して最善を尽くしてますよ。
 なのに成長してる実感に乏しいのは多分、別のルートに入ると相も変わらずやらかすせいでしょう。
 やらかさなくなったな、少し大人になったな、という描写に乏しいのです。
 そしてエロシーンに入れば、また後先考えずに子作りキメてる、と。
 セックスして中出ししても妊娠しない、ってのはエロゲファンタジーの不文律だってことはわかっちゃいますよ。
 でも、「取り返しがつかないこと」が繰り返し描かれる本作で、子供ができた後を考えずに子作りって、どういう皮肉だろう? と思っちゃうんですよね。
 性癖は人に寄りけりだとは思う部分ですけど、ボクはさすがに、ちょっと引いちゃうなー。
 佐倉シナリオ以外はエロと本編が分離しちゃってるので、別もの……と考えられればいいのですが。

 主人公紹介が終わったところで、各ヒロインの紹介。
 本作は、かなり明白に攻略順が決まっています。
 その攻略順に従って、3人の紹介と、シナリオをざっくり見ていきましょう。

あいかわ・まこと

相川 実(あいかわ まこと)

  1. 3ルート中、最も短いシナリオ。
  2. 本格的異能バトルが楽しめるのはこのルートだけ。唯一の割下死亡エンドあり。
  3. 落とし穴: プレイヤーの盲点を突いてくる選択肢

 自然の流れで進めれば、まずはマコトのルートからクリアすると思います。
 ホントにいい子ですし、会話も弾むし、しかも自分に好意を寄せてくれてるわけですから。気になるのが当然です。
 でも、マルチルートのファーストヒロインって、だいたい不憫ですよね……。
 春乃ちゃんと出会った瞬間にフラグが折れるって、冷静に考えてひどい話ですよ。ま、わかるけど! わかるけどさ!
 この人、怪我が非常に多い。自分自身のルートで生傷が絶えませんし、春乃ルートでも関係ないところで怪我をする。佐倉ルートでも危うく大怪我するところでした。
 正直、マコトにとって割下は疫病神でしかありません。「付き合うのはやめとけ」と天が告げているレベル。
 初期好感度はとっても高いんですが、今なら解かるそうカンチガイ。

 だって、マコトが「ししょー」を持たなかった世界線でも、マコトに違いはほとんど無かったんですから。
 小学生の「運命の出会い」なんて、そんなものかもです……。

 ボクはこういう、シナリオで不憫属性を背負わされてる子って、好きなんですよね。放っておけないというか。
 でも割下は、男友達みたいな今の関係を、自分の力では崩せない、手放せない。臆病者め……。気持ちはよくわかるんですがネ。
 非日常と関わらなければ、2人が付き合うことは決して無かったはず。佐倉先輩に感謝しなきゃですよ。
 てか、それは吊り橋効果ってヤツでは? 相川さん、もうちょっと冷静になった方が良くない? 割下だよ?
 「普通が一番」って常々言ってたのに、なんで普通じゃない男に惹かれるの?
 ……自分の心はままならないものですなあ。

 クライマックスの異能バトルについて。
 超能力者1人に対して、マコトと割下の一般人2人で挑むという構図はアツいけど、普通に不利です。多少難しいのは、しょうがない。
 バッドエンド盛りだくさんですが、気をつけていれば難しいものは少ないです。視点移動システムをフル活用した戦闘も、慣れてくると楽しいです。
 最初の1つを除けば。
 ふつう時間制限イベントが始まったら、「制限時間内になんとかしなきゃ!」って思うじゃないですか。
 制限時間ではなく、終わった直後にタイミングをずらしてくる、しかもあからさまな偽装工作までしてる。作者側の悪意を感じます。
 ここまできちんと読んでれば、その場面で何をしなきゃいけないかはわかってるはず。それだけをテストすればいい話じゃないですか。
 「なんでこんなことするの?」って思う、むやみに厳しい仕掛けが、各ルートごとに1つはあるってどういうことかと思いますよホント。

 そして、シナリオ的にも落とし穴があるマコトルート、ですよね……。
 「Good? Bad? End」は後日譚でまでおちゃらけておいて、まごうかたなく本作最悪のバッドエンド。割下最悪のやらかしが招いた帰結。
 並行世界とか難しいことはわかりませんがね。自分を必要としていた女を捨てて、復讐に囚われた、その事実は消えやしません。
 そして、その後がひどすぎ。心で泣いてたのは最初だけかよ!?
 もし少しでも元の世界に帰れると思っていたら、あの世界のマコトに手を出すとか、どうやっても顔向けできないのはわかるだろう!?
 割下にとって、マコトは換えが効く女なんだっていう事実が、限りなくボクの心を傷つけるんですよ。なんでこんなことするの?
 佐倉ルートと比べると、ホントに扱いの差が泣けてきて。「自分が幸せなら別世界のマコトも幸せ」なんて思考には辿り着きませんよ、ボクには無理だ。
 「プレイヤーにとっては全員換えが効く女」みたいな警句? そうなのかな……。

 Win Endでスッキリしない終わりかたをするのは、シナリオとして理解はできます。ボクも佐倉ルートへのモチベーションになりましたし。
 当て馬扱いされた気分がして、ちょっと嫌だけど。普通のバカップルとして幸せをつかんでますから、まあいいじゃありませんか。
 ところで、眉毛が濃いからってアレ毛にも期待した人っていますか? ここ5年で増えてきましたからね、アレ毛フェチ。

ながお・はるの

長尾 春乃(ながお はるの)

  1. シナリオ分岐が少ない分、サービスイベントが多め
  2. 超能力より普通の人間の方が、現実的に脅威だよね、というお話。
  3. 落とし穴: まず見えないクリックポイント

 はい、次はボクらの天使、春乃ちゃメーガーネ! メーガーネ!
 危ないところだった……もし出会いシーンでメガネを掛けていたら、間違いなくマコトそっちのけでクリアしてしまっていたぜ。それでも一向に構わないんだけどネ?
 このメガネはアルビノ用の特殊なもので、春乃ちゃんは周囲の光量にあわせて3種類を使い分けています。決しておしゃれで付け替えているわけではなく、選択肢も多くないそうですが、それでも身の回りのものはできるだけカワイイものを選んでいるとのこと。当然ですよね!
 はぁはるのちゅわぁん……ボクのおツムにも30°でチョップをくらわせてぇ……はぁ……米沢と割下は仲良くすき焼きになっちゃえばいいんだ……

 かろうじて正気を取り戻しつつ先に進めます。
 どうもこの子、あまり男慣れしてないんです。というか、人慣れしてない。
 高校入学まだ間もなく、男子が遠巻きに眺めつつ盛んに牽制しあっている最中、アホの割下トンビがジューシーなお揚げさんを割下ァッ!!
 かわいそうに、割下みたいな変態のあしらい方がわからない春乃ちゃんは、うかうかと接近を許し、無防備にも数々のアレソレを曝してしまうのです。なんてことだ!
 まあ、割下にとっても、春乃ははじめて付き合うタイプなんですけどね。
 初々しい二人の様子はとても眩しく微笑ましく爆発だぁー!! 仲むつまじく乳繰りあってんじゃねー!!

 このルートでは超能力はほとんど意味を持ちません。
 超能力に関わらなくとも、春乃と付き合う以上、必ずいつかは越えねばならない壁でした。
 胃液がこみ上げるようなこともあるかもしれませんが、どうぞ安心してください。
 本作はあくまで痛快学園アドベンチャー。看板に偽りはないはずです。

 ただし、あのクリックポイントだけは全然痛快じゃねえ!!
 これはボクの環境の問題でもあるんですが。タブレットで、スタイラスなしの指操作でプレイしたのがマズかった。回答を見ても押せる気がしない。
 全画面モードでかろうじて見えるスポットをとんつくとんつくノックし続けること1分、やっと入れました……。
 皆さんはぜひ、マウスでプレイしてください。当たりだったら、マウスオーバーでカーソル変わります。
 そして、答えを知ってもぶち切れないように。ホント、なんでこんなことするんでしょうか。

 本作にこのシナリオが存在する意義が、まず興味深いところです。
 超能力もアルビノも、人の「個性」のひとつだ、という本作の主張。マコトルートと比較すると、透明人間と透明な大衆の対比もできるでしょう。
 だからこそボクは、本作を真面目に考えずにはいられないんですよね。ただ「そういうものだから」で終わらせちゃいけないと思うのですよ。

 このルートの憎まれ役、堤 有香(つつみ ゆうか)さんについて。
 彼女の行動は、割下側から見ると不可解でやりすぎに見えますが、彼女の側から考えてみましょうか。
 あの会合の時点で、割下がテレキネシスを使える、少なくとも関係があることは、疑いづらい状況になっています。
 一方で、雛鳥の襲撃に割下が関わった可能性は、かなり低いだろうこともわかっているでしょう。話せば話すほど、疑いは薄まっていったはずです。
 となれば、割下が能力を他の生徒に使わないよう、タゲを取るのが堤の主目的、そうじゃありませんか?
 すごく勇気ある行動ではあるけど、身の程知らず。平和と規律を保つ、という目的は素晴らしいものですが、堤がそこまで必死になれるのはなぜなんでしょうね。
 その上さらに、汚れ役を買って出るなんて、まるで割に合いません。そりゃあ春乃と割下をからかうぐらいの報酬がないとやってらんないでしょうよ。

 このルートの結末は、それしか無いだろうな、という意味で納得のいくものでした。都合のいい話とは、ボクには言えませんよ。
 雪村と真鍋、そして堤の協力がなければ、普通に詰んでますもん。
 フィクションの力ならフィクションで対抗できますが、現実の力に対抗できる手段って、本当に少ないことを思い知らされます。
 まず逃げるっきゃないですよ、実際は。それは恥ずかしいことじゃありませんからね。

さくら・ゆうこ

佐倉 夕子(さくら ゆうこ)

  1. メインシナリオ。最長、分岐もイベントCGも最多。
  2. メガネっ子を救え!! (←超重要)
  3. 落とし穴: はるか以前の選択肢による分岐・プレイヤーの心を折るミニゲーム

 そして、本作のメインディッシュ、佐倉ルートです。
 作者の与根金次さんは、かのコミックLOに描いたこともある人です。まっことに尊い。ペドの諸兄、大いに感涙を流そうではないか!

 佐倉先輩は、本当に揺るがないお方です。好感度がひとつとして上昇しないという鉄壁ぶり。揺れないっ……!
 しょうがないんで、妹のあすみを出汁に使うのですが、だんだんとどっちを攻略してるのかわからない状態に。
 あすみはリアルに小学生、10歳児です。いたいけな娘さんに絶え間ない卑猥を降り注ぐ割下惣二。いいんでしょうか? もちろん!

 何を書いてもスポイラーになりかねないのがメインルートの辛いところ。上に書いた落とし穴についての注意喚起だけします。
 1つ目。ある時の選択肢が原因で、ずいぶん後になってからルート分岐する場面が2~3ヶ所あります。そこで!?みたいな分岐をする。
 いわゆるバタフライエフェクトってヤツだな! と思い込んだところで、プレイヤー視点で不条理な印象はぬぐえません。
 対処法としては、こまめにセーブを取っていくしかありません。
 ……他のルートのセーブがつぶれる? そこはほら、Day Selectでなんとか凌いで……。

 もう1つの問題点が、かなり深刻。ミニゲームが本当に苦行なんです。
 あの重要局面で、うすのろが、クリアできなきゃ一発ゲームオーバーの壁になって立ちはだかるなんてシュールすぎます。プレイヤーとしちゃたまったもんじゃない。
 うすのろで負けたせいで折れるエロゲ主人公なんて前代未聞です。空前絶後であることを心の底から祈っています。
 救済措置として、姉妹どちらかに1点でもつけて勝負の前に戻れば、イベントをキング・クリムゾンできるようになりました、しかし。
 じゃああの過酷すぎるうすのろ勝負はいったい何だったんだってことになるので、根本的な解決では無いですよね……。
 もう1つ、CG回収に必須の反復横跳びゲームも救済措置が入ってるんですが、救済される前はどんな苦行だったんだよ!!

 まあ……ゲーム制作あるあるですけど。
 自慢の自作ミニゲームを披露したものの、難しすぎてクリアできなかったり、ただの作業でしかなかったりすることは、古今枚挙に暇がありません。
 ただ、このグランドフィナーレルートで、そういう簡くや根性を起こしてほしくはなかったなー、と思います。
 何度も言うようですけど、なんでこんなことするんですか。
 そんなことしなくても、しない方が、よっぽど楽しい作品なのに……。

 ボクは多分、このHappy End!には、共感することも感動することもできないと思います。
 これは、割下とか須藤が言うところの、キモいってやつでは無いんですか?
 悠里ちゃんが生きてる世界と、先輩の両親がいる世界と、割下が大学に行ける世界を行き来できるようになりました! 都合よく使います!
 っていうオチの付け方で、本当にいいんですか? 自分に都合のいいように世界をダビングするような話でしょ?
 確かに先輩の当初の目的は果たせました。能力がある以上、それは使うでしょう。
 が、物語としてハッピーエンドだったとは、ボクには思えないんです。

 非日常に憧れる割下と、日常が一番というマコトとの価値観の対立。最終的に非日常とは縁が切れたが、ともに日常で生きる幸せを手に入れた。これがマコトルート。
 春乃と、先天的な障害に対する周囲の偏見との対立。最終的に偏見はなくならないけれど、割下と春乃が2人互いに認めあうことで、偏見のない居場所を作り上げた。これが春乃ルート。
 物語の構造は、基本的には対立と昇華で説明できる、と聞きました。
 では佐倉ルートでの対立構造は、なんでしたっけ。
 先輩の当初の目的は、悠里ちゃんを生かすこと、両親の家に帰ること、でした。
 しかし、先輩たちが過去へ飛んだ結果はどうだったか。
 悠里ちゃんは生かすことができたが、それは結局別世界のことでしかなく、目の前で死んでしまったという事実に変わりはなかった。
 そして両親の家に帰る希望がなくなったばかりか、別世界のあすみまで両親と引き剥がす、加害者になってしまった。
 この状況下で、もっとすごい能力を持ってきました! 解決! って結論は、少なくとも昇華ではないですね。
 悠里ちゃんの問題は、結局最後まで解決はしていない。それでも、「取り返しのつかないことを受け入れ、次に進む」段階が明確に見えれば、2人は成長したんだな、と思えたんじゃないかなー、と……。
 やはり難しいですね。ラストシーンの合体技がホントにやりたかったことは、すごく伝わってくるものなぁ~。

 確かに先輩と2人で苦労したのは違いないですけど、そういう心理的成長の経験を共有してないもんだから、割下はあすみの色仕掛けに屈服するのです。
 (あすみにとって)7年も前の、ある1日の選択肢で運命が決まるなんて、ホラーでしょ。主に先輩にとって。
 あすみに色仕掛けされても、「先輩は割下が好きだけど……割下って先輩のこと好きなのかな?」と、わからなくなってくる。
 他のルートと違って、覚悟完了選択肢が無いところもポイントかもしれません。

 まあ、つらつら言ってきたとおり、色々不満も残る作品です。
 ただボクは、全部ひっくるめて、この機会にプレイして良かったって、思ってます。
 足かけ7年以上に及ぶ制作の中で、様々に変化した部分もきっとあったでしょう。
 しかしそのコアの部分、どうしてもこれを完成させたいというモチーフが貫かれていることを、確かに感じ取れたからです。

 あのラストシーンの印象が強くて、そのために書いたかのように錯覚もします。
 が、エロだけで良しとするならば、その過程をここまで書き切ることは、おそらくできなかったはずです。

 たぶん、根本は、人生への応援歌なのでしょう。
 世の中、取り返しのつかないことはある。自分の力ではどうにもならないこともある。
 超能力なんか無いこの世の中だけど、生きてるってことは、それよりもっと素晴らしいことだ、と。
 その根本が貫かれていたからこそ、この作品は完成したのだと思います。

 調整されてない部分もありますけど!
 むしろ、この長い制作期間の中で、あまり丸くならず尖ったままで出た、ということに情念の強さを感じ、畏怖を覚えるのです。

 撃ち漏らしたことを中心に、評点はちょろちょろっと済ませておきましょう。

ハマリ度 : 7 / 10
 評価として見ると、レビューで指摘したような意地悪な仕掛けや、セーブスロットの少なさ等々はやはりマイナス点。
 キャラクターはそれぞれ一貫性があって、生き生きとしている。このキャラたちがきちんとぶつかり合っているからこそ、本作は面白い。
グラフィック : 9 / 10
 視点移動のギミックのため、背景も立ち絵も、魚眼レンズのような不思議な効果がある。
 春乃ルートのアレはギミックの問題としてハマリ度から減点。グラフィックからは視点移動システムの使いづらさだけを減点した。長期にわたる制作のため、塗りの不統一感はややあるが、大きく気になることは無かった。
サウンド : 8 / 10
 全曲書き下ろし、だからこそできる演出の数々。特にマコトのテーマの使い方は印象に残る。
 似た傾向の曲がやや多く、意外性のあるアレンジが少ないところが不満点。やや高音が耳につく。

 で……結局tradeoffのって、あすみちゃんの小豆色ブルマが正解、でいいんでしたかね?

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