■ Ghost Hospital
作者 [ 椎虫 さま(代表) ] ジャンル [ ホラーコメディ/異世界お散歩ゲーム ] 容量・圧縮形式 [ DL不要・ブラウザゲーム ] 製作ツール [ RPGツクールMV ] 言語 [ 日本語 ] 配布元
- (補足)
- 2024.03.10:現在は、Plicyからブラウザ版のみプレイ可能です。
- 2024.03.10:ダウンロード版は2024.03.22に配信予定
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 9 /10 10/10 10/10 56/60 赤松弥太郎 8 /10 10/10 9 /10
《 ES 》 ハマリ度:9 グラフィック:10 サウンド:10
明るい未来を蝶に載せて
「Ghost Hospital」は、フリーのADVとしてはかなり長丁場の作品です。公称でのプレイ時間が1周5時間、その上で「周回が必要」と何度も記載されているほど、マルチエンドを売りにした作品です。
その「周回が必要」ぶりは、1周クリア時の私の予想を遥かに超えていました。「2周目で初めて説明される事柄」があまりにも多くあるのです。
リッパーが魔界に来た時に最初に話しかけてきた「姿の見えないおじさん」、最初に黒い杭と紙でこじ開けて以降、二度と立ち寄れない診察室、病院内にやたらと貼り出されている「レッドガール」の指名手配書…序盤も序盤から散りばめられている伏線、いつか解決するかと思いながら初週を進めて行きました。
その中で進めて行った1周目の結末、とんでもない衝撃を受けました。そう、上記の伏線も吹っ飛ばすほどに。
そして明かされる2周目からの新情報。今までの物語が全く違ったように映る、その衝撃を皆様にも味わってもらいたいです。
本作の「1周5時間」、ひょっとしたらこの2周目を含めての時間なのかもしれません。その物語を味わうためには、少々ながら関門が用意されています。道中の謎解きはもちろん、各病棟最後に待ち構えるボス戦が簡易なアクションとなっており、ダメージ源を避けながら仕掛けを動かしてボスにダメージを与えていきます。
ただし、謎解き・アクションのいずれも難易度は簡単。アクションは、普段の探索でオートランと「セメントKメロンジュース」で高速化していると、勇み足で余計なダメージを受けがちですが、ダメージ源に当たらないよう1歩ずつ動いていれば楽にクリアできます。
決して物語の妨げとならず、それでいて物語の緊張感を盛り上げてくれる、絶妙な塩梅となっています。また、道中にはサブシナリオもあります。ただし、これが初回プレイの妨げとなっている面もあります。
最大のサブイベントである珍味集め、その中の1つ「ゴーストハーブティー」をうっかり病棟のお嬢様ゴーストに渡してしまい、「取り返しのつかない要素」だと思い込んでやり直したりもしました。
実をいうと、「ゴーストハーブティー」は一般病棟クリア後にもう1パック手に入ります。それ以外の珍味も、2つは店売り品、1つは必ず手に入ると、決して難しくはありません。
そして、これらサブクエストも、2周目には完全にリセットされてしまいます。New gameでないと2周目のフラグ・イベントは実行されないため、サブクエストなどももう一度こなす必要があります。(一部は金庫にパスワードを入れてスキップできますが。)本作では、皆様にも「衝撃」を味わってほしいため、2周目以降の展開は私も赤松さんもかなりボカしています。
四の五の言わずプレイしてほしい…そのための措置であることは、今回の高めの評点からも分かるでしょう。
ただ、今からプレイを始める場合、2024.03.22配信予定のダウンロード版をお勧めしたいです。本作、見て分かる通りのポップなオリジナル素材がふんだんに利用されているため、ブラウザ版だとかなりローディングが長くなります。スタッフロールの切り替わり毎にローディングが入るレベルです。
ムービー演出も多く、お使いのブラウザやPC環境によっては、ゲーム中の動作すら重くなる可能性があります。
演出面での「重さ」を少しでも軽減するため、ダウンロード版からのプレイをお勧めいたします。
また、本作はマウス操作が無効になっている点にもご注意を。Plicyにある他のRPGツクールMV, MZ作品ではマウスが使えるものもあったため、本作の「マウスが使えない」仕様はダウンロード版も据え置きと思われます。アクション面で1歩ずつの操作が求められる意味でも、マウス操作は非推奨です。キーボードもしくはゲームパッドでプレイしてください。
それでは、貴方もこのメルヘン魔界をお楽しみください。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:9
背中合わせの運命が ゆがんで裂けた
本作が第一印象で押し出してくる登場人物・オバケたちのかわいらしさ、これには一点の曇りもありません。
こだわりぬいたグラフィック、ムービー、書き下ろした音楽も見事なものです。
がしかし、本作がゲームとしてかわいらしいか、というと……かなり我が強い部類に入るかと思います。
本作ときちんと向き合うために、まずはまとまった時間と精神的余裕を準備しておくことをオススメします。
なぜなら、本作のストーリーは最低限2周する前提の作りだからです。
ガイド無しでハッピーエンドを見ることはほぼ不可能ですし、カンニングして辿り着いても意味がわからないでしょう。
周回前提の作りなのに、本作は周回を跨ぐと、ごく一部のフラグを除き、コレクションや実績を含むすべての要素がリセットされます。
なので、1周目でコレクションアイテムや実績を集めるのは無駄ってことに、なっちゃうんですね。
初見からがんばってアイテムコレクションしようとする、ボクのような人種が罠に陥りやすい仕様です。1周目はストーリーを追うことに集中した方が良いでしょう。
まずは2周してストーリーを堪能する、ここまでで最低6~7時間くらいはかかるでしょうか。
ノーマルエンドの苦い経験を克服し、知恵と勇気と愛で日常を守り抜いたハッピーエンドを迎え、プレイヤーの満足感は最高潮に高まります。
そしてここが、最大のプレイのやめどころです。
非の打ち所のないハッピーエンドなのに、何が不満なのか「まだ帰れない」と言い出す主人公。
しかし彼の催促に従って、ここから先にプレイを進めると、ハッピーエンドで味わった満足感は損なわれ、後日譚をクリアするまではモヤモヤとした気持ちになるだろうからです。
トゥルーエンドへの道筋自体は、ここまでプレイした人にとっては簡単でしょう。
ハッピーエンドルート、後戻りできなくなる手前のセーブデータから突入できますし、ハッピーエンド最後でもらえる金庫の番号を使えば、チェックシートがもらえます。
条件を満たして、あのあからさまに怪しかった場所まで行けばトゥルーエンドは見られます、しかし。
あのエンドを初見で納得できる人は、ほとんどいないだろうとボクは思ってます。
トゥルーエンドに至るまでの動機が、まったくプレイヤーの視界の外にあるんです。
それまで一言も発してこなかった主人公にも自我があり、プレイヤーが知らない情報を知っていた、というところまでは、よくある仕掛けです。
ですが、主人公にプレイヤーには明かしていない真の動機があり、プレイヤーが目的と思っていたことを棄ててしまう、となれば、これは裏切りなんですよ。いきなり出されても納得はしづらいです。
一応説明はあります。でもプレイヤーが納得できるかは別です。
プレイヤーが「それは仕方ないな」と思えるだけの伏線も情報も、トゥルーエンドを迎えた時点では揃ってないし、第一にプレイヤーにとって積み重ねてきた時間が違う。
それまでの10時間程、プレイヤーはただ一心に、メアリーたちを救い出し、一緒に帰ることだけを考えていたんですから……。
ボクが経験してきた中で言うと、こういう主人公がプレイヤーを裏切るタイプの物語は、今まで共に行動してきた仲間たちがプレイヤーと同じ視点に立って、驚きを共有することが多かったです。
そして主人公を止めに入ったり、場合によっては視点人物が切り替わったりしながら、主人公の動機を仲間たちと共に理解していく時間が設けられていました。
ですがこのトゥルールートに限って、仲間たちは主人公のそばにいないんですよ。主人公は彼らの隙を突くように行動してるわけで。
そしてそのまま、仲間たちの視点に立つことなく物語は終わってしまいます。
唯一の頼りは、あの幽霊……
と言っても、影がものすごく薄いんですが。物語の最初で主人公に取り憑いて、ゲームオーバーの時に「しっかりしろ!」とか言ってくる、あの幽霊です。
ですが、彼とてプレイヤーとの接点は非常に希薄で、ハッピーエンドになるまで意識すらしない人も多いだろう程度の存在感です。ナビゲーターとも呼びづらい。
なお悪いことに、彼は本件の利害関係者なんです。主人公が何者なのかはわからないけど、やろうとしていることには全面的に賛成する立場です。
かくして、プレイヤーは取り残されます。
「友人たちと歓談していた最中に、友人の友人が現れて、自分そっちのけで他のみんなが盛り上がってる」
ような疎外感を味わいましたねボクは。
プレイヤーが主人公のことを理解していくのは、実はトゥルーエンドの後なんです。
トゥルーエンド後、実績の「秘密のメモ」が実行できるようになったり、さらなる隠し要素が解禁されます。
解禁された隠し要素を見て、各地に残されたメッセージを聞いていくと、主人公にもそこに至る過程があったんだな、と見えてきます。
まあ、色々辻褄が合わないじゃないかってところはずっと残るんですが。残るんですが。
心情的には、主人公を少しは理解して、寄り添えるようになっていくんじゃないかと。
隠し病棟の解禁も、実質このタイミングだと思います。
公式的にはホラー要素マップとのことですが、トゥルールートのアレの方がよほど心臓に悪いので、たいしたことは無いです。
クリア特典として、ハッピーエンドルートである人物に救いが訪れるので是非クリアしたいところですが。
ボクがプレイしたタイミングだと、New Gameからプレイし直しても変化が起きないという、おそらくは不具合に直面しました。
ノーマルルートをやり直し、蝶を消してからNew Game選択で変化が起きたんですが、本来ここまで複雑なはずはないと思います。
本作は周回まわりの仕様が複雑で理解しづらいんですよね。
最大の難関実績、ブローチ全回収で解禁される、トゥルーエンドの後日譚が本作のエンドコンテンツです。
素直にここまでプレイして良かったと思える、素晴らしいエンドコンテンツだったと思います。
ですが、これ、ボクの感覚ではおまけ要素に位置づける内容では無いです。トゥルールートまでプレイした人全員が知るべき内容です。でないと消化不良です。
トゥルーエンドまで到達した人全員が、全38種のブローチをくまなく探すほどやり込むか、ボクは疑問です。
トゥルーエンドまでで見切りをつけ、モヤモヤした気持ちのまま投げ出す人も多いんじゃないでしょうか。
ボクが後日譚までクリアするまで、30時間近くプレイしたでしょうか。
ボクはプレイ時間が長めな方ですが、それにしてもボリュームに対してプレイ時間が長すぎると感じてます。
ゲームの中で誘導しようと努力していることは窺えます。ボクも隠し病棟のヒント以外は公式攻略に頼らず見つけてます。
ただ、手順が必要以上にまどろっこしいだけなんですよ。
時間を掛けた分の満足感はあるんですが、もっときちんと見せるべきところは見せてくれと思いますね。
時間を掛けて本作をプレイするほど、ただかわいいだけの作品じゃないことはわかってきます。
ボクは本作から、おばけたちと同等以上に、人間関係へのフェティッシュを感じました。
根っからの悪人は一人としていない世界観ですが、その中でもすれ違ったり、ねじれたり、再び結び直したり、様々な形の関係性を見せてくれます。
最後までたっぷり堪能できますので、できることなら、最後の最後まできっちりとプレイすることをオススメしたいです。
まあ後日譚は、人によっては昔の恋人が他人といちゃついてるのを見せつけられるようなものかも知れませんが、それはそれで踏ん切りが付いていいんじゃないでしょうか!