■ Raisond'etre (レイゾンデイト)
作者 [ C3 Games さま ] ジャンル [ 探索ホラー ] 容量・圧縮形式 [ 749MB・ZIP, ブラウザゲーム ] 製作ツール [ RPGツクールMV ] 言語 [ 日本語 ] 備考 [ Steamにて有料版が販売中 (\700) ]
[ 無料版はふりーむ!にてダウンロード可 ]配布元
- (補足)
- 2022.04.09:現在の最新バージョンはVer2.1.6です。
- 2023.06.28:リンクを変更。
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 8 /10 10/10 10/10 55/60 赤松弥太郎 8 /10 9 /10 10/10
《 ES 》 ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:10
美しき君に捧げよう、血のように紅いバラを。
1か月前…本作「Raisond'etre」をイチオシレビューにしようと決定した時点では、実は本作は未完成でした。2022年1月のイチオシに決定した後にプレイを進め、「次の更新をお待ちください」と出た瞬間、正直言って私は焦りました。
心配せずとも、イチオシ決定から数週間たった2021.12.28、「Raisond'etre」は完結しました。同時に、ダウンロード版の配信も開始されました。
アツマール版とダウンロード版を合わせてプレイした私の感想は、「本作を完結まで見れてよかった」…その一点でした。
しかし、完結して「何がよかった」のかについては、本稿では語れません。本作はかなりネタバレ要素が広範囲にわたります。追加シナリオを含めると、話のおよそ75%がネタバレ要素となるのです。本稿では、未だ「Raisond'etre」に触れていない皆様に、ちょっとしたアドバイスと「探索ゲーム」としての手触りについて触れておきましょう。
まず初めに、本作はダウンロード版でプレイすることを強くお勧めいたします。作者様ホームページにもある通り、本作は美麗な画像と美麗な演出ゆえにCPUに大きな負荷がかかります。ブラウザでプレイすると、一部アクションシーンがまともにプレイできなくなるくらい重くなる場合があります。動画ストリーミングやSNSなどを別タブで開いていた場合などです。ブラウザでプレイする場合は、「Raisond'etre」を開いているタブ以外はクローズし、CPUとブラウザへの負荷を最低限に抑えておきましょう。
もう一つ、ブラウザ版…というよりゲームアツマールでのプレイをお勧めできない理由があります。実は本作、セーブファイルまで重いのです。フラグ管理が細かいせいか、演出用のスイッチが多いのか、一般的なRPGツクールMV製のゲームと比べて、セーブファイルの容量が10倍以上もあるのです。
加えて、本作にはストーリーの枝分かれも多く、複数個のセーブが必要となります。そのファイルをニコニコのアカウントに保管しようとすると、セーブファイルのブロック数は優に500を超します。
とても、無料のニコニコアカウントでは保管しきれる量ではありません。月500円を支払ってニコニコプレミアムに加入しても、他のゲームのセーブファイルを切り捨てなければいけないほどギリギリの容量になります。
ダウンロード版ならば、「演出の重さ」は大きく軽減されますし、「セーブファイル容量の大きさ」は問題となりえません。より快適に、より「真」に「Raisond'etre」を楽しむため、私はダウンロード版でのプレイを強く推奨いたします。もう一つは、本作の探索要素について。本作の特徴的なシステムに「集中」があります。CキーもしくはCtrlキーで「集中」状態となることで、隠されたアイテムを見つけ出すシステムです。
最初の印象では「部屋に入ったらまず集中」ぐらいの高頻度で使わなければいけない印象がありますが、実は「集中」を使う箇所はかなり分かりやすいアドバイスがあります。
「集中」で明らかにできる隠し場所に近づくと、周りが明るくなる演出と共に「hocus pocus...」という囁き声が響きます。「hocus pocus...」が聞こえたら集中…と覚えておけば、スムーズな探索ができるでしょう。
それ以外にも、本作には探索をスムーズに進められる工夫が数多く散りばめられています。「どこに行けばいいか」「何をすればいいか」のガイダンスが、メニュー画面に常に表示されています。ストーリーの枝分かれについても「[選択]と表示されたミッション」「ミッションの達成/失敗」で分かりやすく表示されます。この表示が出たら、セーブを分けておくことを推奨いたします。
以上の通り、本作は探索面については分かりやすくプレイできるため、プレイで悩むのは一部のアクションシーンぐらいです。そのアクションシーンも容易にリトライできるため、「セーブし忘れて大きく戻された!」という事態もそうそうありません。
ただし、本作はストーリーをより深く、より分かりやすく知るために、こまめなセーブが推奨されます。先述の「ストーリーの枝分かれ」はもちろんのこと、「ストーリーを進めて初めて分かる『あの人のあの行動』の理由」が本作にはたんまり詰まっているからです。
本作は、プレイを進めれば進めるほど、世界が広がる仕掛けになっています。主に「Memory」「Gallery」というオマケ要素によって。「Memory」「Gallery」を開くアイテムは小さいため見逃す場合もありますが、もし見つからない場合は、作者様ホームページの攻略を頼りにしましょう。
初見の皆様も、昨年のバージョンをプレイした皆様も、ぜひ「Raisond'etre」の世界と意味をその目で余す所なくご覧ください。「悪」も「正義」も「愛」も含めて美しい物語をご堪能ください。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:10
生きることがそう 背負いし罰だろう
「今あなたはなんのために生きてますか?」と聞かれて、「死にたくないから生きてる」と答える人は……現代日本では、あまり多くはないと思いたいところです。
だって、それはあまりに追い詰められた答えだからです。生きる意味とか考える余裕が無ければ、動物としての生存本能に縋るしかありません。
ボクは、それも大事だと思いますけどね。何はなくとも生きていれば、何かが起きるはずです。
ただ、もし余裕が少しでもあるなら、生きる意味について考え、向き合う、それが人間らしさじゃないでしょうか。
しかし、個々人が生きる意味について論じられるようになったのは、人類史上たかだか100年ほどの歴史でしかありません。
フランス語のraison d'êtreが、日本語でもそのままカタカナで「レゾンデートル」と読まれているのも、もともと哲学用語として輸入されたからでした。
訳すと「存在意義」、もっと平たく「生き甲斐」と言っちゃう場合もあるけど、さすがにそれはニュアンスが離れすぎてるかも。
本作の作中人物で説明してみましょうか。
ジェフは、初対面こそ、温和そうな印象を受けるかもしれません。
丸っこい人がニコニコしてると、それだけで愛らしく見えますからね。
しかし、彼の食に対する執着は、ただ事ではありません。
そこに食料がある限り、彼は食べます。たとえ食べ過ぎで腹を下そうが、まったく改めません。腹痛が治まるやいなや、また食べ始めるのです。
傍から見ていると、明らかに病的です。
胃痛でうなされながら、まだ「食べないと」と口走る彼を見て感じるのは、呆れではありません。恐怖です。
しかし、ここで大切なのは、彼本人がどのような自覚をもって行動しているかという点です。
これが過食症であれば、食べ過ぎてしまう自分を嫌っていて、食べたくないのに食べてしまう、と苦しむところです。
ところがジェフの場合、本人が食べることを望んでいます。
彼自身が「食べ続ける自分でありたい」と願っていて、むしろ食べたいのに食べられない自分に苦しんでいるのです。
この、「自分がどうありたいか」という意志、行動を選択する方針がレゾンデートルです。
ジェフにとっては、食べることがレゾンデートルの最上位にあります。彼から食べることを取り上げたら、自殺しかねません。
他の人から見て並外れたレゾンデートルは、並外れた行動を引き起こしかねないのです。
キリスト教の影響が強い時代は、人々はレゾンデートルについて意識することはありませんでした。
その点で、本作の舞台が教会なのは、なかなか皮肉が効いた設定です。
キリスト教では、人は神によって造られたものであり、人間存在を「そのように造られているから」で説明していました。
人間に自由な意思があるのは、神がそれを与えたから。
人間が堕落しやすいのは、神に試されているから。
自殺してはならないのは、神に与えられた命だから。
人生でぶつかる様々な困難や苦痛は、神が人に与えた試練である、という世界観です。
しかし現代日本のボクたちが、その世界観をそのまま受け容れることはできません。
神が実在するかどうか、なんて、ボクたち人間が知り得るはずもないことです。
知り得ないからこそ、神はいる、と考える人もいれば、神はいない、と考える人もいる。
ボクたちは、様々な考え方を受け容れる、多様性の時代に生きています。
だからこそ、今ある状況を自分がどう引き受けるか、自分の中での位置づけが重要になるのです。
本作の登場人物達は皆、耐えがたい苦痛や困難に直面してきた人たちです。
では、その苦痛や困難は、ただの理不尽だったのか?
これを「神の試練」と考えるほど信心深い人物は、本作には登場しないようです。
それでも、自分の中でその苦痛や困難に意味を与えないと、とてもじゃないけど生きていけなかったのです。
彼ら彼女らの生きる意味は、苦難の中で変質し、その行動も変化せざるを得ませんでした。
彼ら彼女らが見いだしたレゾンデートルの当否はさておき、それでも生きるという選択をするために、自分にとって必要な変化だったのです。
主人公・ロゼは、記憶のかなりの部分を失っています。
自分が不治の病に罹っていて、いつか死ぬ、ということだけ覚えていて、その恐怖から、死にたくないという本能だけで生きています。
しかし、いつ死ぬかもわからないロゼの境遇は、本能だけで生きていくには、あまりに過酷なものです。
ロゼが記憶を取り戻した頃、彼女も自分のレゾンデートルを見いだすことができるのでしょうか?
主人公が生きる意味を見つける物語、それが「Raisond'etre」です。
まあ、許されている範囲のネタバレで書けるのは、これくらいですかね。
評点にいきましょう。
- ハマリ度 : 8 / 10
- 物語全体の構造を提示せず、「1つ目のエンディングまで」の所要時間を提示するのは、初見プレイヤーにとっては不親切、不誠実に思える。エンディング1つを見て済むような作品ではない。すべてのエンディングを見るまでの目安時間を示しても、ネタバレになるとは思えない。
システムとしてはスタンダードな探索ADV。「集中」などのサブシステムは、あくまでフックとして機能させる、という割り切りで、ゲーム性が変わるような重大なものではない。終盤のアクションは慣れていない人にはやや難しいかもしれないが、リトライは無制限。斬新さに欠けると見る向きもあるだろうが、完成度の高い安定した面白さがある。エンディングに関わらない分岐も、物語を深めることに貢献している。
MEMORYについて、位置づけが少々不安定に感じた。プレイヤー全員に読んでほしい物語なら、もっとあからさまに、わかりやすく隠した方が良い。あくまでおまけ、やり込んでくれた人への報酬と考えるなら、それ無しでは理解が難しくなるような台詞や展開を、エンディングの必須ルートに置くのはいただけない。開放のタイミングがプレイヤー次第なので、最速で開放するとエンディング展開のネタバレになってしまうのも気になった。- グラフィック : 9 / 10
- ダウンロード版で集中モードの重さが大幅に軽減し、オススメしやすくなった。2.0.1時点ではマップチップ消失バグがあったが、2.0.5では今のところ発生していない。
多人数による共同製作だが、分業がはっきりしていて安定感があり、画風の違いが気になるようなことは無かった。キャラドットの所作も可愛らしい。UIもわかりやすくまとまっている。
マップチップが、解像度の違う素材が混在しているからか、ややごちゃごちゃとした印象。このマップチップなら、キャラドットはもっと陰影がはっきりした方がわかりやすかったのではないかと思う。- サウンド : 10 / 10
- 書き下ろし曲は本作最大の魅力のひとつ。集中モードでの別アレンジも含め、印象に残る。効果音のディレクションも細やかで的確。
俯瞰すると、本作は、救いの無い陰鬱な話、と言われても否定できません。人はどんどん死にますしね。
ただ、救いがあったかどうか、については、当事者の視点に立つと、まったく違ってくるのではないかと思います。
自分の生きる意味を見つけて、それを全うした人生なら、傍から見て最善で無かろうが、不幸に見えようが、本人は満たされて死んでるんじゃないですかね。
ま、周りにとって幸福かどうかは、まったく別の話ですけどね。