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■ 霧と太陽の王

霧と太陽の王
作者 [ ゆきはな さま ]
ジャンル [ 雰囲気探索RPG ]
容量・圧縮形式 [ 276MB・ZIP ]
製作ツール [ RPGツクールMV ]
言語 [ 日本語 ]
備考 [ 現在のバージョンは、1.2 ]
配布元 ダウンロード先

霧と太陽の王 霧と太陽の王 霧と太陽の王 霧と太陽の王

レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 8 /10 10/10 10/10 81/90 A
シュン 7 /10 10/10 8 /10
赤松弥太郎 9 /10 10/10 9 /10

 《 ES 》  ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:10

とりさんはイケメン…になれるだろうか?

今回のイチオシ作品「霧と太陽の王」は、モノクロームで描かれる独特のタッチのグラフィックが売りの作品です。
そして、もう一つは、バージョンアップの度に追加されるストーリー展開にあります。
作者のゆきはな さまのTwitterでも、バージョンアップの度に宣伝を行っています。

霧と太陽の王ver1.2が公開されました!
仕立屋イベントとバッドバッドエンドにボイスが付いてとってもほのぼの!おまけ部屋でふんわりしたやりとりが増えたり、おまけシナリオ2が色々パワーアップしました!どうぞよろしくお願いします。https://t.co/KLn35SF4nB pic.twitter.com/bB7apnG4ym

— ゆきはな (@__yukihana__) 2017年7月1日

未プレイの方ならば「あらかわいい」と、思わずリンクをクリックするような宣伝画像です。
しかし、全ENDをクリアした後に改めて見ると、トラウマでのたうち回ることになるでしょう。
そういう容赦のないストーリーも、本作の魅力の一つです。
何しろ、本作では、「ふりーむ!」のダウンロードページで「トゥルーエンドを最後に見る事をオススメします。」と念を押すほどです。念を押すほどに、他3つのENDは容赦なく、また、これだけネタバレしても本作の魅力は全く損っていません。
特に、バージョンアップで追加された「バッドバッドエンド」は、到達条件の多さとタイミングのシビアさでふるいを掛けてきます。これだけの条件をクリアしたのだから『覚悟して来てる人』とみなされているのです。
きっと絶望することでしょう。

特に私の場合、よりによって最初にトゥルーエンドを見てしまいました。その後のENDを埋めるため、ノーマル・バッドと進み、攻略メモを見ながらバッドバッドまでコンプリートしました。
そんな手順で進めた読後感はただ一つ。「誰か俺を癒してくれ…」でした。
バッドバッドの顛末に絶望を感じるまでに、王様もルシャナも、そして、敵役であるはずの闇の一族でさえ、本編中で愛らしく描かれているのです。

ストーリーは容赦のなさが多分に含まれますが、ゲームで詰まることはほとんどないでしょう。謎解きは2~3個程度。どれもメモを取れば難なく解けるレベルです。
また、シナリオの長さも全ENDコンプで2時間程度。手軽にプレイできます。
ストーリークリア後のオマケも豊富にあります。特に、オマケストーリーにはオリジナルの楽曲まで入っています。きっとバッドバッドで沈んだ心を癒してくれるでしょう。からあげ食べたい。

 《 シュン 》  ハマリ度:7 グラフィック:10 サウンド:8

霧で覆われた王国の本当の真実とは・・・。

 綺麗な絵柄と重厚なストーリーが特徴の短編ADVです。簡単に言えば「王様と少女のお話」といった感じです。
話は短く(全てのエンドを見ても2時間程度)、難易度も低め。エンド分岐は分かりやすくヒントも用意されてます。
それでも心に残るものがきっとあるはずです。全体的に話は暗いですがちゃんと救いもありますよ!

 それはとある言い伝えが残る、霧で覆われた王国のお話。
そんな国の城で50年の眠りから覚めた霧の王。自分自身は「王様」と呼ばれることに不満があるようです。
しばらくして彼はどこからか迷い込んだ人間の少女を発見します。
彼女に「ルシャナ」と名づけ、元の場所へと返すことになった霧の王。その出会いが運命を変えるとも知らず・・・。

 霧の王が少女とともに城の中を探索していきます。
途中料理名当てといった簡単な謎解きもあり、それらはヒントが多いので楽に解くことが出来るはずです。
エンドは4種類あり、分岐の条件はほとんど選択肢で、とあるエンドでは特定のイベントを通過する必要があります。
全てのエンドが最初から見られますが、「ふりーむ!」の紹介ページにあるとおりトゥルーエンドを最後に見ましょう。

 霧の王が忘れていた約束が本作の鍵となります。それは一体どんな約束だったのでしょうか。
ルシャナにも何か隠してる様子が見えます。言葉を話せないようですがそれには何か裏がありそうですね・・・。
個性的な城の住人たちも色々怖い部分があります。また物騒なあの仕掛けには驚かされましたね・・・。趣味が悪いですよまったく!
悲惨なエンドが多い中、幸せな結末を辿るエンドも用意されています。2つあるおまけシナリオの中にはコミカルなものもあり、単に暗いだけの話ではありません。
暗い暗い世界で王と少女の出会いは未来を変えるきっかけになるのでしょうか。それとも・・・。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:9 グラフィック:10 サウンド:9

殻を破って 自由に舞って 心焦がした鳥たちよ

 本作のグラフィックに関しては、もう、スクショでご覧頂いたとおりです。
 白と黒、細密な線で構成された画面。ボクはバロック期の銅版画を連想しました。色が無いからこそ、空白部分に想像力が働きます。
 もちろん、絵に相当の自信をもっていなければできない作戦です。作者さん自身が書き下ろした効果もあり、本作の空気を見事にコントロールしています。
 問題があるとすれば、ぱっと見、ホラーゲームに見えることです。本作、ホラーゲームでは無いんですが。
 細かく書き込まれた霧の住民、人ならざる者達は、あまりに繊細で、一見して怖いのです。
 主人公である「王さま」も、しかり。魔性の者である彼の禍々しさが、しっかりと表現されています。

 そこで重要なのがなんですよ、
 もともとボクは声入りのゲームって苦手だったんですが、同じく声嫌いのみなさんにも、それこそ声を大にしてお伝えしたい。
 王さまの深く、温かい声を聞かずに食わず嫌いするのは、本当にもったいないぞ、と。
 キャスティングは王さまに限らず、すべてが見事に調和しています。声優の皆さんの見事なお仕事を全員列挙するのは避けますが、ルシャナのか細い声には庇護欲をかき立てられ、仕立屋の持って回った口調には思わず苛立ちと笑みがこみ上げるでしょう。
 予算の都合上、フルボイス化は困難でしょうが、ボクにとっては現状で十分すぎます。
 たとえ声が入っていない場面でも、キャラクターたちは頭の中で勝手に、いつもの声でしゃべり出すのですから。

 グラフィックも、ボイスも、それ単品で高く評価できるものですが、本作においてはどちらも、車輪の片輪に過ぎません。
 グラフィックとボイス、両輪そろって初めて本作の雰囲気はできあがるのです。
 そのバランスが実に美しい。ゲームとは総合芸術である、と改めて思わされます。

 本作は探索アドベンチャーの体裁を取っていますが、ごく単純な謎解きとお使い、誰でもクリアできる鬼ごっこしかありません。
 言い方によっては、プレイヤーの関与する余地が狭い、「ゲーム性」が薄い、と言えるかもしれません。
 しかし本作においては、無理に「ゲーム性」を高めなかった英断が、ストーリーへの没入感を高めています。
 ごく短い作品ですが、イベントシーンと探索を通じ、プレイヤーは王さまとルシャナに同化していきます。
 難解な仕掛けなどは、かえってその妨げになるだけに思うのです。

 これだけ短く、ストレートで、完成度の高い作品だと、もうボクなんかが言うことはほとんどありませんね。
 若干残った不満点は、評点で述べていきます。

ハマリ度 : 9 / 10
 本編のストーリー進行の美しさも、オマケでのぶちこわし方も見事の一語。クリア後のオマケのあり方を考える、いい教本になると思う。
 不満点いくつか。まずセーブスロットの少なさ。操作可能ならいつでもセーブできるのに、セーブを躊躇したためにタイミングを逃し、音声再生時間を含めて長尺のイベントに突入してしまったのがボクのプレイの反省点。皆さんはぜひファイルバックアップで対応しよう。
 エンディング分岐はReadmeに明記されているし、難解なものではない。しかし、たとえばバッドエンド分岐のフラグが、いつでも回収可能に見えてチャンスは一回だけだったり、プレイヤーとしては因果関係が見えづらくやや納得しにくいものもある。できればReadmeに頼らない落とし方をしてほしい。
 3点目は、設定の見せ方について。転生の設定が、エンディングにさしかかろうというタイミングで出てきて、重大な役割をするのは、いささか唐突。転生前の記憶が「戻ってくる」とか、一個の人間を転生前の人間と同一視するとか、プレイヤーには疑問に思う部分が多い。もう少し序盤で伏線を張っておけば、ここまで唐突な印象は避けられたと思う。
グラフィック : 10 / 10
 これもまた、オマケでのぶちこわし方が素敵。一見の価値あり。
サウンド : 9 / 10
 曲は基本背景に徹する選曲で、主役はボイスだと徹底している。これもまた、オマケでの以下略。
 唯一の不満は、曲もボイスも音量が固定されていて、ゲーム内では一切バランス調整できない点。声をOFFにさせたくなかったのだろうと理解するが、全体的に音量が低いのでマスター音量での調整が必要だった。

 探索型アドベンチャーの持つ可能性の、またひとつの極を見せてもらったように思います。
 ここまで来るとほとんどノベルゲーの域に近づいているのですが、イベントの最中でもセーブできるようなプラグインとか、ありませんか?

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