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■ Sheepy: A Short Adventure

Sheepy
作者 [ MrSuicideSheep さま ]
ジャンル [ 短編ジャンプアクション ]
容量・圧縮形式 [ 239MB・ZIP, Steamから直接ダウンロード ]
言語 [ 英語 ]
備考 [ Steamからもプレイ可能 ]
配布元 ダウンロード先

Sheepy Sheepy Sheepy Sheepy Sheepy Sheepy

レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 8 /10 10/10 10/10 55/60 A
赤松弥太郎 8 /10 10/10 9 /10

 《 ES 》  ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:10

夢見る電気羊

今回のイチオシ作品「Sheepy: A Short Adventure」は、そのサブタイトルの通り数時間で読了できるアクションゲームです。
ただし、その数時間の中で流れる映像美は、まさに圧巻の一言。短い道中には、様々な意味での仕掛けがてんこ盛り。
スイッチなどを用いた謎解き、道中に眠る意味深なメッセージ、結構シビアなジャンプアクション、道中で手に入る様々な能力とそれを用いて潜り抜ける難所…
本作に含まれる全要素は、我々に良きにつけ悪しきにつけ大きな印象を残します。
特に私の良印象となった場面は、広大なランアクションステージ。高速で流れゆく背景の映像美と操作のシンクロが、唯一無二の体験を我々に与えてくれます。

逆に悪印象に残ったのが、本作の操作説明の不足と、少々ながら残っている不具合。
新しいアクションを手に入れた時の操作説明は、キーボードとパッドのどちらが例示されるのか不安定で、パッド操作の私の場合もキーボードの説明のみが表示される場面がありました。新アクションがどのキー・ボタンで出るか、実際の操作で確認する他ありません。
「アクションの発動に条件がある」というのも、本作の難点です。中盤・ランアクション直前で手に入るローリングダッシュ(キーボード:Shift, パッド:Xボタン)は、ローリング終了時に地上にいないと不発します。終盤で手に入るロケット(キーボード:Ctrl, パッド:Y)は、空中でないと発動しません。
特にロケットは、かなり操作に難儀したアクションでした。「発動中は移動キーを押した方向に浮遊する」という超絶便利なアクションですが、パッド派の方は注意が必要です。(2024年5月のバージョンでは)ロケット中の操作はハットスイッチ(十字キー)ではできません。左スティックの操作しか受け付けないのです。
それまでずっとハットスイッチで操作していた私は、初めてロケットを手に入れた時「しばらく真上に上昇するのは便利だけど、この崖を横断するには距離が足りないなぁ…ローリングと併用するのか!? なんて難しい操作を要求するんだ!!」と、何日もの間、崖下で往生していました。
痺れを切らして実況動画を見て初めて、「ロケット中も移動キーで操作可能」と知ったのです。

そういう知識不足で詰まる箇所を除けば、アクションの難易度は「十数回程度は屍を積むが、その中で徐々に攻略法を学べる」レベルになっています。
特に屍を積むのが、計3戦のボスバトル。攻撃の全てが初見殺しなのはもちろん、特に後半の2戦は「持っているアクションを、タイミングを見計らって、フルに活用」しなければダメージを与えられません。
ロケットの操作は、手に入れてから最後まで、かなり難しいです。「崩れる床をローリングとロケットで横断する」ステージは、上手くロケットの終了タイミングを合わせないと、床を通り過ぎたり逆に間に合わなかったりして、落下死してしまいます。

また、本作にはもう一つ注意点があります。本作の紹介記事で度々「メトロイドヴァニア」という表現が使われています。
しかし、本作は「1つの広大なマップを往復してストーリーを進める」アクションではありません。完全にステージ制であり、一度ステージを進むと(ニューゲームする以外に)前の場面に戻ることはできません。
「手に入れた能力で、今まで超えられなかった箇所を進める」レベルデザインは「メトロイド」などと同じですが、「メトロイドヴァニア」と聞いてイメージする進行方法とは全く異なることをあらかじめ頭に入れてください。
完全ステージ制ゆえにマップも未実装です。中盤の鉱山など迷路になっているステージも存在するため、ゴールへの道・開けるためのスイッチの場所などは自分の頭で記憶する必要があります。「虱潰しに歩き回れば、いつかゴール(ローリングが手に入る祭壇)にたどり着く」仕組みになってはいますが。

本作は「新鮮な映像美を自らのアクション操作で描ける」という唯一無二の体験ができる傑作です。ただし、その道中は難易度高めで、雰囲気とローカライズのために説明不足となっている箇所も多く存在します。
操作は最大で3ボタン(Z:ジャンプ, Shift:ローリングダッシュ, Ctrl:ロケット/調べる)、これを頭に入れてから本作に臨みましょう。それ以上の詳細な攻略は、道中で屍を積みながら楽しく学べますし、屍を積むほかに学ぶ方法はありません。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:9

少し淋しくて ちょっと悲しくて とてもうれしいよ

 ボクが一言で本作の特徴を表すなら、空気のような清涼感、とでも言いましょうか。
 ストーリー性とかメッセージ性とか、そういった押しつけがましさが皆無なのです。

第2層

 廃墟の中に散らばる文章や録音から、ここで起きたことを読み取っていく楽しみ……は、一応あります。
 しかし、すべて収拾したところで、この廃墟自体の謎は謎のまま。舞台としての最小限の説明くらいしかありません。
 なんなら、英語が全くわからなくても、本作の魅力にはほぼ影響がないとすら言って構いません。

 主人公が辿る旅路の中に、人生の教訓めいたメッセージを読み取る……人も、中にはいるかもしれません。
 ただしそれは表層からはまったく読み取れないし、そのような「読解」を仕向けているようにも思えません。
 解釈する余地はありますが、少なくとも現時点では、そうしたストーリーやメッセージを前面に打ち出したいというわけでも無さそうなのです。

第3層

 本作を「メトロイドヴァニア」として紹介する人がいますが、それは本質的ではない捉え方です。
 たしかに、ストーリーを進めていくことで新たな移動スキルが手に入ったり、部分的にメトロイドヴァニアの要素を援用してはいます。
 しかし根本的に異なるのが、本作の不可逆性です。
 階層に分かれた本作の廃墟は、一度立ち去った階層には二度と入れません。後戻りすることができないのです。
 移動能力強化はあくまで、操作や階層の変化を印象づけるアクセント、また主人公の成長を表現する手段としての役割を担います。
 行動範囲の拡大、今まで行けなかったところに行けるようになる、というメトロイドヴァニアの醍醐味を期待してはいけません。

 そもそも本作は、探索を主眼に置いていないんじゃないでしょうか。
 まあ、第3層は(探索したいのであれば)探索しがいのあるマップで、ここが本作をメトロイドヴァニアと錯覚させる要因にもなっていそうですが。
 でも、移動能力強化やボス戦はすべて主導線上にありますし、文章や録音の重要度が低い以上、探索をさせる圧力がとても低いんですよ。探索しなくてもいいんです。

隠し部屋

 くまなく探索した結果手に入るのがこのレコード盤ですが、ゲーム本編との関係がまったくありません。
 集めたところで、何か新しい事実が明らかになるわけでもなく、録音が手に入ったり音楽が手に入ったりもしません。
 ゲーム内にこのレコードの存在を示唆する記述も何も無く、シナリオ上いかなる役割も果たしていません。
 単純なイースターエッグであり、これを見つけなくてもなんら不利益はありません。
 Steam版なら実績が解放されますが、itch.io版にはそもそも実績システムありませんし……。

 本作に無いものを今まで挙げてきましたが、
 じゃあ、本作には何があるのか?
 それは、

第1層

第2層

 この美しい廃墟と、小さくてかわいい羊のぬいぐるみです。
 それだけでいい。

 廃墟の美しさは見ての通りですが、主人公は動いているのをぜひ見てほしいなあ。
 ぴょこぴょこと跳ねるように歩く、その1つ1つのモーションが実に愛くるしいのです。
 ゲーム進行に合わせて、どんどんと並外れた移動能力を獲得していく主人公ですが、そのかわいらしさは変わりません。

 この小さくてフワフワした羊にとって、うら寂しい廃墟はしかし、比較的安全な場所ではあります。
 敵はボス戦しかなく、罠もいじわるな配置ではありません。
 それでも、足を滑らせれば即滑落死の危険はつきまといます。
 新しい移動能力を手に入れるたび、新しい階層に辿り着くたび、手探りでその安全を確かめていくその過程は、まさに成長そのものです。

最初のボス

 ボス戦についても、決して難しいわけではありません。
 ただ、主人公はとてもやわらかく、ボスの攻撃が当たれば当然一撃で死にます。オワタ式です。
 そもそも主人公は攻撃のためのスキルを一切持っていないので、どうすればダメージが与えられるのか、そこから考える必要があります。
 初見殺しの要素がかなり強く、攻略法に気付くまでは屍を積み上げることになるでしょう。

 滑落したり、ボスに消し飛ばされたりする度に、プレイヤーの良心が小さくうずくんです。
 「なんでこんな小さくか弱い存在を、何度となく死なせてしまうのだろう」と。
 プレイヤーは羊に自己投影するというより、この羊を守りたいという庇護欲がかき立てられます。
 その気持ちこそが、次こそは失敗しないようにしようという意欲に繋がるのです。

 タイトルの通り、短い作品です。大作と比べれば印象に残りづらい作品かもしれません。
 でも起動すれば、繊細な光の演出とドットが、涼やかなアンビエント音楽に包まれて、廃墟と羊を照らし出してくれます。
 続編が出るかはわかりませんが、彼らは、今たしかにここにいます。
 まだプレイしていないなら、会いに行ってください。もうプレイしたあなたも、思い出してあげてください。

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